ブランディングとは?意味やメリット、やり方まで分かりやすく解説
ブランディングという言葉を聞いたことがあるものの、「正直マーケティングやデザインなどと何が違うのか良く分からない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、ブランディングの概要やマーケティングなどとの違いを踏まえつつ、メリットややり方、取り組みにおけるポイントをご紹介します。
ブランディングの成功事例や学ぶ上でおすすめの本もご紹介していますので、ぜひ最後までご確認ください。
ブランディングとは
まずはブランディングの意味やマーケティングとの違いなど、基本的な内容を確認していきましょう。
ブランディングの意味と目的
ブランディングとは、企業独自の価値や世界観を込めたブランドを創り上げ、そのブランドを社内外に対して浸透させる一連の取り組みです。
競合との差別化を実現し、顧客に選ばれる企業になることを目的に実施されます。
ブランディングは単純なイメージ戦略や広告手法とは異なり、企業の根幹となる価値観や文化をブランドとして確立し、マーケティングや営業といったあらゆる活動を通じてブランドを体現していく活動となるのです。
そもそもブランドとは?
ここでそもそもブランドとは何かについて確認しておきましょう。
ブランドは元々「家畜に押された焼印」のことを表し、他の生産者の家畜と識別するための手段として活用されていました。そこから発展し、企業における「識別要素」を表すようになったのです。
現代におけるブランドの定義としては、アメリカ・マーケティング協会が以下のように定めています。
「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスと差別化するためのネーム、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」(引用:エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント)
上記の定義でも触れられているように、ブランドは様々な要素で構成されており、具体的には以下のような要素が挙げられます。
・ブランド名
・ブランドカラー
・キャッチコピー
・ブランドロゴ
・イメージキャラクター
・パッケージデザイン
・ミッション
これらの諸要素を構築し適切に組み合わせることで、独自性のある存在として顧客から認識されるようになるのです。
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ブランディングとマーケティングやデザインとの違い
先述のとおりブランディングは企業の独自価値を基にブランドを作り、そのブランドを浸透させる取り組みです。
対してマーケティングは製品・サービスを売る仕組みを構築する活動であり、ブランディングにおける外部浸透の役割も担います。
マーケティングにおける各施策において、ブランドが伝わるように様々なコミュニケーションを行うわけです。
またデザインもブランドを構成する要素の一つであり、ブランドを伝えるための手段です。
あらゆる媒体のデザインはブランディングの重要なファクターになります。
ブランディングはなぜ必要なのか
類似製品やサービスが溢れる現代においては、顧客に対して自社の価値や独自性を正しく伝え、他社と差別化しなければ選んでもらえません。
そのためブランディングに取り組み、自社の独自価値を明確化する必要性が高まったのです。
また人口減少によって顧客母数が減少していく状況においては、既存顧客との良好な関係性を構築し、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を最大化させることも重要視されるようになりました。
ブランディングはLTV向上において有力な施策であることから、様々な企業がブランディングに取り組んでいるのです。
ブランディングと関連して押さえておきたい用語
概要の最後に関連用語を2つご紹介します。
ブランドエクイティ
ブランドエクイティとは、資産としてのブランド価値を示す言葉です。
ブランド論の大家であるケビン・レーン・ケラー氏は、ブランドエクイティを以下のように定義しています。
”あるブランドのマーケティング活動に対する消費者の反応にブランド知識が及ぼす差別化効果” (引用:エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント)
ブランドエクイティが高い企業は、他社との明確な差別化が実現できる上、価格プレミアム(顧客が、あるブランドに対して他のブランドより余分に払っても良いと考えている金額)や顧客ロイヤルティの向上が見込まれます。
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ブランドロイヤルティ
ブランドロイヤルティは、ブランドに対する顧客の忠誠度を表す言葉です。
ブランドロイヤルティが高まれば、顧客が他社製品・サービスに移ってしまう可能性が低くなり、長期間にわたって自社の製品・サービスを愛好してくれるようになります。
そのためLTVを最大化させる上で、大きな役割を担う概念と言えるでしょう。
ブランドエクイティの構成要素の一つでもあり、その中でも特に重要な要素となっているのです。
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ブランディングの種類
続いてブランディングの種類について確認しましょう。
ブランディングの方向性をベースとした種類
まずはブランディングの方向性による種類をご紹介します。
インナーブランディング
インナーブランディングとは、社内の従業員向けに行われるブランディングを指します。
自社の大切にしている価値観や理念などを従業員に理解してもらい、どのようなシーンにおいてもブランドを体現してもらえるように、働きかけていくプロセスとなります。
アウターブランディング
アウターブランディングは、顧客をはじめとした社外に向けて行われるブランディングです。
Web広告やWebサイト、営業担当者といったあらゆる顧客接点において、ブランドを起点としたコミュニケーションを行うことで、ブランド浸透と理解促進を図ります。
ブランディングの対象をベースとした種類
次にブランディングの対象による種類についてご紹介します。
コーポレートブランディング(企業ブランディング)
コーポレートブランディングとは、企業自体のブランドを創り上げ、浸透させていく活動のことです。
あらゆるブランディングの中で中核をなす取り組みと言え、プロダクトブランディングや採用ブランディングといった取り組みの基盤となります。
プロダクトブランディング(製品・サービスブランディング)
プロダクトブランディングとは、製品やサービスのブランドを立ち上げ、浸透させる一連の取り組みのことです。
コーポレートブランドを軸としつつ、顧客にとっての価値やメリットなどの要素も分かりやすく取り入れ、製品・サービスの差別化を図ります。
なおコーポ―レートブランディングとプロダクトブランディングは、対象とする顧客によってBtoBブランディング(対企業向け)とBtoCブランディング(一般消費者向け)に分けられる点も覚えておきましょう。
セルフブランディング
セルフブランディングとは、個人のブランドを創り上げ、浸透させる活動です。
基本的には個人事業主やフリーランスをはじめ、アーティストやタレントといった個人で事業を営む人たちが取り組むブランディングと言えるでしょう。
採用ブランディング
採用ブランディングとは、求職者に対して自社の魅力や独自性を込めた採用コンセプトを確立し、そのコンセプトを起点に母集団形成や選考などを行う取り組みです。
人口減少による採用競争の激化に伴い、採用力を強化させることを目的に、コーポレートブランディングの考え方を採用領域に応用する形で生まれました。
ブランディングで強調する要素をベースとした種類
ブランディングにおいて強調する要素による種類としては、以下のようなものが挙げられます。
ストーリーブランディング
ストーリーブランディングとは、企業にまつわる物語やストーリーを主軸として展開するブランディング手法です。
創業者の生い立ちや創業までのストーリー、製品・サービスの開発秘話などを素材として、自社の大切にしている価値観や理念を顧客に伝えます。
パーパスブランディング
パーパスブランディングは、自社の「存在意義=パーパス」をブランドにおける主軸として活用するブランディング手法です。
たとえ提供している製品・サービスが類似していても、事業を始めた理由や掲げる存在意義は三者三様であるため、そこを起点として他社との差別化を図ります。
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ブランディングの効果・メリット
次にブランディングが企業にもたらす効果・メリットについて見ていきましょう。
1.競合との差別化
ブランディングに取り組むことで、競合他社との差別化を実現できます。
ブランディングは自社独自の価値や魅力、理念などをブランドとして確立し、識別記号として顧客に伝える取り組みとなります。
・競合他社と何が違うのか
・どういった価値を提供しているのか
・何のために存在しているのか
ブランドを確立することで、顧客に上記のような点を正しく理解してもらえるため、競合他社に埋もれることなく選ばれるようになるでしょう。
2.価格競争からの脱却
ブランドを確立することで価格競争からの脱却も実現できます。
ブランディングによって自社の独自価値を打ち出すことで、そのブランドに価値を感じ、共感を覚える顧客が集まります。
こういった顧客は製品・サービスを比較する際に「価格」をそこまで重視しなくなるため、たとえ競合より高い価格帯であっても受け入れられやすくなり、売上や利益の向上が期待できるのです。
3.ロイヤルユーザーの獲得
ロイヤルユーザーを獲得できるという点も、ブランディングの大きなメリットです。
ブランディングを通じて自社の独自性や価値を明確にすることで、そのブランドに対して魅力を感じるユーザーが集まり、やがてロイヤルティ(忠誠度)の高いファンになります。
ロイヤルティの高いファンは、ロイヤルユーザーとして自社製品やサービスを長期間にわたって愛好してくれるようになり、「パレートの法則」における上位2割を構成するようになるでしょう。
その結果、自社の売上にも大きく貢献してくれるのです。
4.従業員のエンゲージメント向上
従業員のエンゲージメント向上が期待できる点も見逃せません。ブランディングでは、「自社がなぜその事業を営んでいるのか」「どういった世界を目指しているのか」といった点を明確にし、従業員に対してもその内容を伝えていきます。
その結果、従業員は自分の仕事に対する意義や誇りを感じられ、自社に対して貢献したいという気持ち:エンゲージメントが高まりやすくなるのです。
5.広告宣伝コストの削減
ブランディングに取り組むことで、広告宣伝コストの削減も見込まれます。
ブランディングに注力し、自社ブランドの認知度が高まることによって、ブランドの世界観や価値観と親和性の高い見込み顧客が自然と集まるようになります。
またロイヤルユーザーとなった既存顧客が、知人や友人などに自社ブランドを勧めてくれたり、SNSなどでポジティブな口コミを投稿してくれたりするため、費用をかけずに新規顧客を獲得できるのです。
6.新規事業参入の成功率を高められる
高い信頼を得るブランドを確立できれば、新規事業参入の際の成功率を高められる点もメリットとして挙げられます。
無名な企業が新規市場に参入しようとすれば、顧客からの認知や信頼をゼロから積み上げていく必要があるため、市場に受け入れられるまでかなりの時間がかかってしまうでしょう。その点、既に確立しているブランドを活用することで、新規事業に参入しても認知獲得までの期間を短縮でき、「あのブランドなら大丈夫」といったように信頼も得やすいのです。
7.採用力の強化
採用力の強化も大きなメリットと言えます。
給与などのスペック面を押し出した場合、一時的に人が集まる可能性は高まりますが、より良い給与の仕事があれば簡単に転職してしまいます。
その点ブランドを採用において打ち出すことで、求職者に企業独自の魅力を感じてもらうことができ、そのブランドに対して共感を覚える求職者が集まります。
その結果、「○○(自社)だから入社したい!」と考える親和性の高い人材の採用を実現でき、ミスマッチの防止を実現できるでしょう。
【補足】消費者・顧客にもたらす効果
ここでブランディングが消費者や顧客にもたらす効果も確認しておきましょう。
ブランディングを実施することで、消費者や顧客はその企業が提供する製品・サービスの価値を理解しやすくなり、購買検討時に製品などについて調査する手間を省くことができます。
また特定ブランドを愛用することで自己表現のツールとしても活用できたり、ブランドの製品を使うことで気分がよくなったりと、機能的な価値だけでなく情緒的な価値も得られるのです。
ブランディングの問題点・デメリット
ブランディングのメリットを押えていただいたところで、問題点・デメリットについても併せてご紹介します。
1.時間と費用がかかる
一つ目のデメリットは、時間と費用がかかるという点です。
ブランディングはブランドを創り上げて終わりではなく、そのブランドが社内外に正しく伝わって、はじめて効果を発揮します。
しかし一朝一夕で社内外に浸透することはないため、中長期にわたって取り組みを実施しなければならず、相応の時間や費用がかかってくるのです。
2.効果を把握しにくい
効果を把握しにくいという点もデメリットと言えるでしょう。
ブランディングに取り組んでいても、実際にどれほど効果が出ているのかについて、マーケティング手法などと比べてデータとして現れにくいのです。
各プロモーション施策のブランディングへの貢献度などは、特に把握しにくいと言えるでしょう。
3.専門的なノウハウが必要
デメリットの最後に挙げられるのは、専門的なノウハウが必要であるという点です。
ブランディングは難易度の高い取り組みであり、専門的な知見やノウハウを持った人材がいなければ成功しにくいと言えます。
日本は欧米などと比較して、ブランディングに対する誤った理解をしている人も多いため、ブランディングに関する専門的な人材も確保しにくいのです。
ブランディングのやり方【ブランド構築編】
ここからはブランディングのやり方について、ブランド構築とブランド浸透の2段階に分けてご紹介します。
まずはブランド構築編として、以下の4つのステップを押えていきましょう。
ステップ①:現状分析
はじめに自社の強み・弱みや取り巻く環境などを、競合や顧客も踏まえながら分析します。
ここでは分析を効率的かつ効果的に行うために、以下のフレームワークを用いるケースが多くなるでしょう。
PEST分析
PEST分析とは自社に対して影響を及ぼす外部環境要因を、以下の4つのカテゴリに整理しながら、影響度などを評価するフレームワークです。外部要因 | 具体例 |
Political (政治的環境要因) |
・法令や条例による規制緩和・強化 ・裁判の判例 ・政権交代 |
Economic (経済的環境要因) |
・為替変動 ・景気 ・金利 |
Social (社会的環境要因) |
・人口動態 ・生活習慣 ・流行 |
Technological (技術的環境要因) |
・新技術 ・特許 |
上記4つの観点で自社の外部環境を網羅的に分析し、自社がブランドを構築する際のポジティブあるいはネガティブな影響を探っていきましょう。
3C分析
3C分析とは、自社を取り巻く環境を「自社(Company)」「競合(Competitor)」「市場/顧客(Customer)」の3つのCで整理し、自社の相対的な強みや弱みを分析するフレームワークです。
多くの場合、以下のような図として表されることになるでしょう。
図:3C分析
それぞれのCに含まれる要素としては、以下のようなものが挙げられます。
自社(Company) 競合(Competitor) |
・製品・サービスの強みと弱み ・製品・サービスの種類 ・従業員の持つノウハウやスキル ・特許・技術 ・拠点・販売チャネル数 ・アライアンス企業 ・企業理念 ・MVV(ミッション・ビジョン・バリュー) ・企業文化・スピリット |
市場/顧客(Customer) | ・顕在ニーズ ・潜在ニーズ ・価値観 ・購買行動傾向 ・購買プロセス |
競合については直接競合(ex.スターバックスに対するドトールコーヒー)だけでなく、間接競合(ex.スターバックスに対するマクドナルド)なども含めて分析することで、より有益な示唆を得ることが可能です。
これらの情報をまずは個別に収集した後、各Cに含まれる情報を組み合わせながら、どの領域や特徴を起点に差別化できるのか、大まかな方向性を検討することになるでしょう。
ステップ②:STP分析
現状分析を終えた後はSTP分析を実施します。STPとは以下の言葉の頭文字をとった概念です。・Segmentation(セグメンテーション)
・Targeting(ターゲティング)
・Positioning(ポジショニング)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
Segmentation(セグメンテーション)
セグメンテーションとは、顧客を特定の属性や要素でいくつかのセグメントに分類するステップを指します。
セグメンテーションでは大きく以下のような基準を用いて、市場を切り分けていくことになるでしょう。
人口統計的変数 (デモグラフィック変数) |
・年齢 ・性別 ・職業 ・家族構成 |
心理的変数 (サイコグラフィック変数) |
・価値観 ・嗜好 ・趣味 |
行動的変数 (ビヘイビアル変数) |
・購買経験の有無 ・製品・サービスの利用状況 ・製品・サービスの利用頻度 ・製品・サービスに求めるベネフィット |
地理的変数 (ジオグラフィック変数) |
・居住エリア ・住居形態 ・居住環境 ・人口 |
Targeting(ターゲティング)
ターゲティングとは、分類した顧客セグメントの中からターゲットセグメントを設定することを指します。
いくつかに分けたセグメントの中から、先のステップで仮説を立てた差別化の方向性と親和性の高いセグメントを選定しましょう。
市場規模や成長性、競合の参入状況などを踏まえながら、「自社が独自性を発揮できるか」という点を軸にセグメントを選びます。
またターゲットセグメントに含まれる各要素(セグメンテーションに利用した変数)を基に、具体的な人物像として肉付けした「ペルソナ」を作成することも忘れないでください。
ペルソナを作成することで、「どういったブランド価値を提供する必要があるのか」を高い精度で考察できるでしょう。
Positioning(ポジショニング)
ポジショニングとは、ターゲットセグメントに対して自社が取るべきポジションを決めるステップです。
多くの場合、以下のようなポジショニングマップの形で整理されます。
図:ポジショニングマップの例
ポジショニングではどういった軸でマップを構築すれば、自社の独自性や優位性を確立できるのかを考えます。
マップの軸については現状分析なども踏まえながら、ターゲティング段階で策定したペルソナのニーズをベースに策定しましょう。
ポジショニングマップは、機能的な価値(製品・サービスそのものの機能)と情緒的な価値(製品・サービスがもたらす価値)の二つに分けて作成することで、自社の優位なポジションを導き出しやすくなります。
ステップ③:ブランドコンセプトの策定
ここまで分析してきた内容を踏まえ、ブランドコンセプトを策定します。
ブランドコンセプトとは、ブランドの根幹となる概念であり、ブランドの価値を分かりやすく伝えるメッセージでもあります。
ポジショニングマップにおける縦軸と横軸の要素をベースに、顧客の記憶に残りやすい言葉として策定しましょう。
ブランドコンセプトの例としては以下のようなものが挙げられます。
・スターバックス: the third place
・カルピス:カラダにピース
・ドン・キホーテ:驚安の殿堂
・YKK AP:窓を考える会社
このようにブランドコンセプトは、自社や自社製品・サービスが提供する価値を一言で分かりやすく表したものと言えます。
企業の魅力や価値を全て含めたいがために、様々な要素を「あれもこれも」と詰め込み過ぎると、かえって意味が伝わらなくなってしまうため、注意しましょう。
ステップ④:ブランドガイドラインを策定する
ブランドコンセプトを構築した後は、ブランドガイドラインを策定します。
どれだけ良いブランドコンセプトを策定できても、それが正しく伝わらなければ、何の意味もありません。
その点ブランドコンセプトに関する仕様ルールや、デザインにおけるトーン&マナーなどをまとめたガイドラインを策定しておけば、どのような接点においても一貫性を持ったブランド訴求を実現できます。
ブランドガイドラインを策定する際は、ブランドを擬人化した「ブランドパーソナリティ」を策定することをおすすめします。
ブランドパーソナリティを検討する際は、以下の3つの観点から詳細を詰めていくとよいでしょう。
バーバルアイデンティティ | そのブランドは「何を」「どのような言葉」で発信するのか |
ビジュアルアイデンティティ | そのブランドはどのような「デザイン」や「カラー」で表現されるのか(どのような服装をしているのか) |
ビヘイビアアイデンティティ | そのブランドはどういった「立ち居振る舞い」をするのか |
ここでも基準となるのはブランドコンセプトです。
ブランドコンセプトを正しく顧客に理解してもらうには、どういったアイデンティティを構築しなければならないのかを検討しなければなりません。
これらの内容を具体的に策定し、全員が参照できるブランドガイドラインとして作成しておくことで、インナーブランディングやアウターブランディングを高い精度で実施できるでしょう。
ブランディングのやり方【ブランド浸透編】
次に構築したブランドコンセプトを社内外に浸透させていく段階に入ります。
具体的には以下の4つのステップを踏むことになるでしょう。
ステップ⑤:ブランディング戦略の立案
策定したブランドコンセプトを軸に、どのようにブランドを浸透させていくか、具体的なブランディング戦略を立案します。
ブランドの浸透は、社内従業員に対して実施するインナーブランディング、社外に向けて実施するアウターブランディングの2つのステップに分けて実施します。
なかでもアウターブランディングは、マーケティング活動とも深い関わりがあるため、「4P/4C」によるマーケティングミックスを踏まえながら検討しなければなりません。
4P(企業視点のマーケティングミックス) | 4C(顧客視点のマーケティングミックス) |
Product(製品) | Customer Value(顧客にとっての価値) |
Price(価格) | Customer Cost(顧客の負担) |
Place(流通) | Convenience(入手しやすさ) |
Promotion(宣伝・プロモーション) | Communication(コミュニケーション) |
ブランドコンセプトを正しく顧客に伝え、想定しているポジションを確立するには、どういったマーケティングミックスが相応しいかを検討し、具体的な施策を立案しましょう。
ステップ⑥:インナーブランディング
戦略立案後は、まず従業員に対してインナーブランディングを行います。
アウターブランディングの実施主体として、顧客接点となるのは全て従業員です。
しかし従業員がそのブランドを正しく理解していなければ、ブランドを体現する存在にはなれません。
そのためまずはインナーブランディングに力を入れ、ブランドコンセプトの社内浸透や理解促進に取り組む必要があるのです。
インナーブランディングの具体的な施策例としては、以下のような取り組みが挙げられます。
・経営層や管理職による率先垂範
・ブランドアンバサダーの任用
・ブランドに関する研修や勉強会の実施
・従業員向けブログやイントラサイトなどによる情報発信
・ブランドコンセプトを解説した社内資料などを配布
・ビヘイビアアイデンティティの業務マニュアルへの落とし込み
・人事制度や評価制度の整備
インナーブランディングの対象となるのは基本的に従業員ですが、もし顧客対応を伴う業務などを外部委託している場合は、委託先従業員に対しても実施しなければなりません。
ステップ⑦:アウターブランディング
ある程度インナーブランディングが進んだ後は、顧客を含めた社外に向けてブランディングアプローチを展開していきます。
ここでは事前に検討したマーケティングミックスを前提として、以下のようなタッチポイントを活用し、ブランドの浸透を目指します。
・自社のWebサイトをはじめとしたオウンドメディア
・FacebookやX(旧Twitter)などのSNS
・イベントやセミナー
・リスティング広告やディスプレイ広告などのWeb広告
・テレビCMや新聞などのマス広告
・営業担当者やカスタマーサポート
特に昨今のブランディングにおいては、ブランド専用サイトによる情報発信など、コンテンツマーケティングを中心に取り組むケースが増えています。
ただしこれらの施策に取り組んでいても、先に挙げた3つのアイデンティティが実践されていなければ、アウターブランディングの効果は現れません。
そのため、施策展開以上に従業員のビヘイビアアイデンティティの徹底や、各種コミュニケーションにおけるバーバル/ビジュアルアイデンティティの一貫性の担保などが、より重要になってくる点は留意しておきましょう。
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ステップ⑧:効果検証と改善
アウターブランディングに取り組みながら、効果検証と改善も実施します。
各施策やタッチポイントにおいて、ブランドの認知拡大や理解促進がどの程度進んでいるのかという点を、アンケートやインタビューなどを通じて検証しましょう。
その内容を踏まえながら、アウターブランディングの各アプローチを改善することで、より効果的にブランド浸透を図ることができます。
またブランディングによって「顧客がどれだけ自社ブランドに対して価値を感じるようになったか」を把握するには、NPS®(ネットプロモータースコア)の測定が有効です。
NPS®では顧客に対して「ブランドや製品・サービスについて、友人や知人にどれくらい勧めたいか」を質問し、0〜10の11段階で評価してもらいます。
そこから回答者をスコアによって以下の3つのカテゴリに振り分けます。
・推奨者:スコア9〜10を付けた顧客
・中立者:スコア7〜8を付けた顧客
・批判者:スコア0〜6を付けた顧客
続いて推奨者の割合から批判者の割合を差し引き、NPSを割り出すのです。
例えば100人の顧客に対して質問を行い、推奨者が40人、批判者が10人だった場合のNPSは以下のようになるでしょう。
NPS=(40÷100×100%)―(10÷100×100%)=30 |
正確なブランド価値の測定とまではいきませんが、「どれくらいの顧客が自社ブランドに対して価値を感じているのか」を大まかに把握する上では十分に役立つため、ぜひ活用しましょう。
ブランディングにおけるポイント
続いてブランディングを進めていく際のポイントについてご紹介します。
ポイント①:ブランドの定義を明確にする
一つ目のポイントはブランドの定義を明確にするという点です。
ブランドの定義について社内で認識がずれていると、ブランディングの方向性に一貫性が生まれず、効果を発揮しづらくなります。
そのためまずはブランド自体の定義を社内で明確にし、関係者全員で共通認識を持っておく必要があるのです。
ポイント②:顧客分析を徹底する
続いて挙げられるのは顧客分析の徹底です。
ブランドは自社の独自性や価値観などをまとめた概念であるため、一歩間違えると誰にも求められていない独善的な内容になってしまう可能性があります。
独善的なブランドは、せっかく長い時間かけて作成したにも関わらず、何の効果も発揮せず、逆に顧客が離れていく恐れがあるのです。
そのため現状分析やSTP分析の段階で、顧客について念入りに分析し、「どのような顧客の、どのようなニーズに応えるブランドなのか」を、しっかりと整理しなければなりません。
ポイント③:経営層や従業員の理解を得る
次に挙げられるのは、経営層や従業員の理解を得るという点です。
ブランディングは中長期的な取り組みとなり、かつ成果も把握しにくいため、社内の理解を得ないまま進めてしまうと、上層部を含めた社内からネガティブな評価を受ける可能性があります。
そのため経営層や従業員、特に現場への影響度が高い中間管理職に対して、ブランディングの有効性などを説明し、理解を得た上で、取り組む必要があるでしょう。
ポイント④:一貫性を担保し、継続的に訴求する
ブランディングでは一貫性を担保し、継続的に訴求することが何よりも重要になります。
ブランドコンセプトを起点として、あらゆる顧客接点において一貫したメッセージを訴求して、はじめて顧客に正しくブランドの価値が伝わるのです。
これらの取り組みを中長期にわたって継続的に実施することで、徐々にブランドへの理解が深まり、確固たるポジションを築くことができます。
ブランディングの成功事例
ここでブランディングの成功事例をご紹介します。
事例①:カンロ株式会社
事例としてまずご紹介するのは、のど飴やキャンディなどを製造販売しているカンロ株式会社です。
引用:糖で生活を健やかに | Sweeten the Future|カンロ株式会社
カンロはパーパスドリブン経営を遂行しています。
自社のパーパスである「Sweeten The Future 糖で生活を健やかに」をブランドコンセプトとして、オウンドメディアを活用したブランディングに取り組んでいます。
ブランドコンセプトを軸に、砂糖の種類や活用のコツ、糖分を適切に摂取できるレシピなどのコンテンツを提供し、自社の存在意義:パーパスの浸透を図っているのです。
これらの取り組みはコンテンツマーケティングの役割も担っており、ブランディングだけでなく、認知拡大や集客といった効果も挙げている好事例と言えるでしょう。
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事例②:ニチハ株式会社
次にご紹介する事例は、窯業系外壁材のトップメーカーであるニチハ株式会社です。
引用:カベのススメ |見惚れる外観、美しく長く住まう|ニチハ株式会社
ニチハは「素晴らしい人間環境づくり」をブランドコンセプトとして掲げており、「カベのススメ」というオウンドメディアを通じてブランディングに取り組んでいます。
人間の暮らしにおいて重要な家、そしてその家を構成する壁にフォーカスし、おしゃれな家を演出する壁のデザインや、汚れが付きにくい壁といった情報を顧客に提供しているのです。
これらのコンテンツ提供を通じて「壁」に関する専門家としてのブランドを確立しながら、集客にも繋げられている事例となっています。
ブランディングを勉強するのにおすすめの本
最後にブランディングを勉強する上でおすすめの本をご紹介します。
おすすめの本①:エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント
はじめにご紹介するのは、「エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント」です。
引用:Amazon
エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメントは、ブランドマネジメントの世界的権威であるケビン・レーン・ケラー氏の著書です。
本書ではブランドエクイティを構築するための手法や考え方について、具体的な事例なども交えながら学ぶことができます。
各用語の定義やブランディングの全体像、マーケティングコミュニケーションへの統合など、ブランドマネジメントに関する基本が解説されているのです。
本書はあくまでエッセンシャル版であり、より詳細な内容については「戦略的ブランド・マネジメント第3版」で紹介されているため、本書を読んだ後にそちらを参照するのも一つでしょう。
おすすめの本②:ブランド論
次にご紹介するのは「ブランド論」です。
引用:Amazon
本書はブランド論の大家であるデービッド・アーカー氏の著書となっており、ブランディングに関する20の基本原則を分かりやすくまとめた一冊です。
アーカー氏のこれまでの著書の内容や、長年の研究成果を一冊に凝縮した内容でありながら、ブランディング初心者でも学びやすい内容となっています。
ブランド構築までの具体的な手順は勿論、構築したブランドを活性化させる方法や、別のブランドへと拡張する際のポイントまで網羅的に解説しているのです。
ボリュームは300ページ程度であり、内容的にも先ほど紹介した「エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント」より読み進めやすいため、先にこちらを読むことをおすすめします。
まとめ
類似製品やサービスが溢れる現代において、ブランドは顧客に自社を見つけてもらうための重要な指標となります。
如何に独自性があり、顧客にとって価値のあるブランドを構築できるかで、今後の事業発展の成否は大きく変わってくるでしょう。
またブランディングはコンテンツマーケティングとも関連が深い手法です。
コンテンツマーケティングはTVCMやWeb広告よりも予算を抑えながら集客を実現できる上、ブランドに関するコンテンツも訴求しやすい優れた手法と言えます。
ブランディングとコンテンツマーケティングの両輪を上手く回すことができれば、事業を大きく発展させることができるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、ブランディングに取り組んでください。