ブランドロイヤリティとは?高めるメリットや方法、具体例まで徹底解説
ブランディング
既存顧客のリピート購買を促進するには、ブランドロイヤリティの向上が欠かせません。
しかしマーケティングに携わる方の中には、正直ブランドロイヤリティについて正しく理解できていないという方もいらっしゃるでしょう。
そこでこの記事ではブランドロイヤリティの概要や向上させるメリットは勿論、高めていくために必要な取り組みなどを分かりやすく解説します。
企業事例も併せてご紹介しますので、ぜひ最後までご確認ください。
ブランドロイヤリティって何?
まずはブランドロイヤリティについて概要や顧客ロイヤリティとの違いなど、基本的な内容について確認しましょう。
ブランドロイヤリティの概要
ブランドロイヤリティとは、ブランドに対する顧客の忠誠心や愛着心を意味する言葉です。
ブランドロイヤリティが高い企業は、顧客のLTV(Life Time Value/顧客生涯価値:顧客が生涯において企業にもたらす価値・利益)が高い傾向にあります。
ブランドに対して強い愛着心や忠誠心を持つ顧客は、ブランドの製品・サービスを中長期にわたって利用するためです。
そのためブランドロイヤリティを高めることで、業績向上や経営の安定といった効果を得られます。
「ブランドに愛着を持ち、ブランドを買い続けてくれるファン」の多さを把握する指標にもなります。
顧客ロイヤリティ・顧客満足度との違い
ブランドロイヤリティと似た用語として、顧客ロイヤリティや顧客満足度が挙げられます。
ここでそれぞれの概要を押さえた上で、ブランドロイヤリティとの違いを確認しましょう。
顧客ロイヤリティとの違い
顧客ロイヤリティは、ブランドを扱う企業に対する愛着の指標です。
ブランドロイヤリティとは愛着心や忠誠心を抱く対象が異なりますが、それぞれ密接な結びつきを持ち、互いに強く影響し合う関係にあります。
企業に対する愛着が高まれば、その企業が展開するブランドへの愛着も高まりやすく、その逆も当然起こり得るからです。
そのため双方の概念を切り離して考えることはせず、「それぞれの向上に向けて、どういった施策を展開すべきか」を考える必要があるでしょう。
顧客満足度との違い
顧客満足度とは、製品・サービスを利用した際の満足度を表す指標です。
顧客満足度とブランドロイヤリティは必ずしも相関関係にあるわけではありませんが、顧客満足度の高さはブランドロイヤリティ向上の必要条件となります。
満足度の高い顧客体験を繰り返すことで、はじめてブランドロイヤリティが芽生え、高まっていくためです。
そのためブランドロイヤリティが低くても顧客満足度が高いケースはありますが、その逆は基本的にはないと考えましょう。
ブランドエクイティとの関係性
ブランドロイヤリティは、ブランドエクイティの構成要素の一つです。
ブランドエクイティとは、ブランドの資産価値を表す言葉であり、ブランド論の大家デービッド・アーカー氏は以下の要素で構成されていると提唱しました。
・ブランドロイヤリティ
・ブランド認知
・ブランド連想
・知覚品質
・その他のブランド資産
ブランドエクイティを構成する要素の中でも、ブランドロイヤリティは特に重要なものであり、ブランドの資産価値に大きな影響を与えるとされているのです。
ブランドロイヤリティの測定方法
目に見えないブランドロイヤリティを調べるには、主に下記のような測定方法があります。
これらの方法を使って、自社ブランドの顧客評価を確認し、製品・サービスの改善に努めましょう。
NPS(Net Promoter Score)
NPSとは、顧客が該当ブランドの製品・サービスをどれだけ他人に薦めたいかを測定する方法です。
顧客が薦めたい気持ちを0点(まったく思わない)〜10点(非常にそう思う)の間で評価してもらい、0〜6点を付けた人を「批判者」、7〜8点を付けた人を「中立者」、9〜10点を付けた人を「推奨者」に分類します。
そして推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値(-100〜100の間。数値が高いほど良い)が測定結果となります。
(例:推奨者が25%、批判者が60%なら、25-60=NPS-35となる。)
DWB(Definitely Would Buy)
DWBとは、顧客が該当ブランドの製品・サービスをどれだけ購入したいかについて測定する方法です。
顧客に対し、「絶対買いたい」「買いたい」「どちらでもない」「あまり買いたくない」「絶対に買いたくない」の5段階でアンケートを行い、「絶対買いたい」を選んだ数が多いほど、ブランドロイヤリティが高いと評価できます。
ブランドロイヤリティを高めるメリット
ブランドロイヤリティを高めることで生まれるメリットをご紹介します。
《ブランドロイヤリティを高めるメリット》
・リピート率の向上・新規顧客の獲得
・顧客単価の上昇
・新製品や新規参入のハードル低下
・広告宣伝コストの削減
それでは各内容についてご紹介します。
メリット①:リピート率の向上
ブランドロイヤリティが高まるとリピート率が向上します。
競合製品・サービスがあってもそれを検討することなく、愛着を持ったブランドを優先して選択してくれるようになるためです。
それにより顧客一人ひとりのLTVを最大化でき、安定した売り上げ基盤を構築できるようになるでしょう。
メリット②:新規顧客の獲得
ブランドロイヤリティの向上は新規顧客の獲得にも繋げられます。
ブランドロイヤリティの高い顧客は自社や製品・サービスへの愛着度が高いため、友人や知人に対して勧めてくれたり、SNSなどを通じてポジティブな口コミを投稿してくれたりします。
知り合いからの推奨や消費者の口コミは、企業が展開する広告よりも信頼度が高く、購買行動への影響度も高いため、効果的に新規顧客の獲得を実現できるのです。
メリット③:顧客単価の上昇
ブランドロイヤリティが高い企業は、顧客単価の上昇も期待できます。
顧客がブランドに愛着を持つと、そのブランドの他製品・サービスについて、自ら進んでチェックをして購入してくれるようになります。
その結果、様々な製品・サービスをまとめて選択することによる顧客単価の上昇が期待できるでしょう。
またブランド自体に価値を感じているため、購買検討における価格の占める割合が減少し、多少高い価格帯であっても購入してもらえます。
メリット④:新製品や新市場への参入のハードル低下
ブランドロイヤリティが高まることで、新製品や新市場への参入ハードルを下げることが可能です。
本来新製品を展開したり、新市場へ参入したりする場合、認知や信頼獲得を一から積み上げなければなりません。
その点、既に高いブランドロイヤリティを構築していれば、そのブランドを新製品や新規市場にも活用(エンドースドブランド戦略)することで、認知や信頼を獲得するまでにかかる時間や工数を抑えることができるでしょう。
メリット⑤:広告宣伝コストの削減
ブランドロイヤリティの高い企業は、広告宣伝コストを削減できます。
ブランドロイヤリティが高まるにつれてリピーターが増加することは勿論、顧客が知人や友人に製品・サービスを勧めてくれたり、SNSなどを使って製品・サービスの情報を発信したりすることで、口コミによる顧客獲得が実現できます。
そのため、これまで顧客獲得のために展開していた広告プロモーション用の予算を削減でき、ブランド価値の向上などに予算を回すことができるでしょう。
【補足】ブランドロイヤリティが低いとどうなる?
ブランドロイヤリティが低い場合、リピート購買などが発生しにくいため、常に新しい顧客の開拓に追われることになります。
たとえリピートしてくれている顧客がいても、価格や機能面、その他の要素で自社の製品・サービスよりも優れたものが登場すれば、簡単にスイッチ(乗り換え)してしまうでしょう。
またブランドを起点とした集客基盤が構築されないため、広告宣伝などに継続的に多大なコストをかけなければなりません。
このようにブランドロイヤリティが低下すると、企業にとって望ましくない事態を招きかねないため、費用や工数をかけてでもブランドロイヤリティ向上を図る必要があるのです。
ブランドロイヤリティを高める方法
ブランドロイヤリティの向上は一朝一夕では実現できず、様々な種類の施策を展開し、段階的に高めていく必要があります。
ここからはブランドロイヤリティを高める方法をご紹介します。
1.ブランドアイデンティティを正しく訴求する
ブランドロイヤリティを高める上で最も重要になるのが、ブランドアイデンティティを正しく訴求するという点です。
ブランドアイデンティティは、ブランドが提供する価値や魅力を集約した概念であり、ブランド浸透における根幹となる要素です。
このブランドアイデンティティを顧客に対して正しく訴求し、理解してもらわなければ、ブランドロイヤリティが高まることはありません。
顧客がブランドアイデンティティを深く理解し、共感を覚え、愛着心や忠誠心を感じたときに、はじめてブランドロイヤリティが生まれるのです。
そのため、まずブランドの価値や魅力を分かりやすく顧客に伝えるためのブランドアイデンティティを構築しましょう。
関連記事:ブランドアイデンティティとは?構成要素や作り方まで分かりやすく解説
2.情緒的価値を踏まえた製品・サービスを提供する
ブランドロイヤリティを高めるには、顧客のニーズを踏まえたベネフィットに加え、情緒的な価値を含めた製品・サービスを提供しなければなりません。
顧客は製品・サービスの直接的な機能によって得られるベネフィットだけでなく、使っている時に感じる情緒的な価値も欲しています。
例えば、自動車のベネフィットは「徒歩よりも速く、公共交通機関よりも柔軟に移動できる」ですが、それだけでは他の自動車と差別化し、ロイヤリティを高めることができません。
そこで各自動車メーカーは、自社の自動車に乗ることで「どういった自己表現に繋がるのか」をイメージしてもらえるようなCMなどを展開し、情緒的な価値において差別化を図っています。
スズキのハスラーなら「アウトドア好き」、トヨタのプリウスであれば「環境保護」など、自動車オーナーに対して「自己表現ツールとしての側面」を訴求しているのです。
このように製品・サービスを開発する際は、機能的な価値やベネフィットだけでなく、情緒的な価値も踏まえることで、ブランドロイヤリティを高める素地を固められると言えるでしょう。
3.製品・サービスのシリーズ化
製品・サービスのシリーズ化も、ブランドロイヤリティを高める上で有効な取り組みとなります。
ブランドロイヤリティの向上にとって、中長期にわたって自社製品・サービスを利用してもらうことは重要な要件となります。
製品・サービスをシリーズ化し、マイナーチェンジや新型モデルを投入することで、既存顧客に継続的に利用してもらいやすい状況を作ることが可能です。
また「同じシリーズのものを集めたい」というコレクション欲がある顧客も少なくないと言え、シリーズ化はこういったニーズにも応えることができるでしょう。
その結果、一人の顧客が自社製品・サービスを利用する期間を長期化させることができ、ブランドロイヤリティの向上も期待できるのです。
4.ブランドアフィニティを強化する
様々な顧客接点を通じてブランドアフィニティ(ブランドへの親近感)を強化することで、ブランドロイヤリティを効率良く高めることができます。
ブランドアフィニティを強化するには、あらゆる顧客対応においてブランドアイデンティティを起点としつつ、顧客に対して真摯に向き合うコミュニケーションが求められます。
ブランドアフィニティ強化に向けた主な取り組み例は以下のとおりです。
コンテンツマーケティングに取り組む
一つ目に挙げられるのはコンテンツマーケティングです。
コンテンツマーケティングとは、自社の製品・サービスと関連したテーマを扱いつつも、顧客にとって役立つコンテンツを提供する手法です。
顧客の購買検討プロセス(認知⇒興味関心⇒比較検討⇒購買⇒リピート)に応じて、顧客のニーズや悩みを解決するために、様々な形態のコンテンツを提供していきます。
コンテンツマーケティングは売り込みに軸を置くのではなく、あくまで顧客へのお役立ちをメインに行うマーケティング手法であるため、顧客との良好な関係性の構築に役立つという強みがあるのです。
さらにブランドアイデンティティを感じてもらえるコンテンツも併せて提供することで、効果的にブランドアフィニティを高めていくことができるでしょう。
関連記事:コンテンツマーケティングとは?メリットや手順、ポイントを分かりやすく解説
丁寧且つ細やかな顧客サポートの実施
次に挙げられるのは丁寧且つ細やかな顧客サポートの実施です。
魅力的なブランドを掲げ、高いクオリティの製品・サービスを提供できていても、肝心の顧客対応がずさんであれば、ブランドアフィニティは決して高まりません。
また購買までは丁寧に対応していても、購買後のサポートや対応に不備があれば、同じくブランドアフィニティを強化することは難しいでしょう。
そのため購買検討時から購買後に至るまで、全ての顧客接点において丁寧且つ細やかなサポートを実施することが求められます。
顧客の視点に立ち、各プロセスで「どういったお困りごとを抱えているのか」を分析した上で、顧客に寄り添ったコミュニケーションやサポートを行うことで、ブランドアフィニティは強化されていくのです。
ロイヤリティプログラムの導入
ロイヤリティプログラムの導入も、ブランドアフィニティ強化に繋がります。
ロイヤリティプログラムとは、優良な既存顧客向けに提供する特典などのことです。
購入金額や購入頻度などを条件に、自社売上への貢献度が高い既存顧客(優良顧客)を抽出し、その顧客との関係をより強固なものにするために提供されます。
ロイヤリティプログラムの代表例としては、以下のような施策が挙げられるでしょう。
・ポイント付与制度
・クーポン発行
・会員ランク制度
・無料特典の提供
・売上の一部を寄付する制度
これらの取り組みを通じてブランドへの親近感を強化することで、ブランドロイヤリティ向上を実現できるのです。
ユーザーコミュニティの構築
既存顧客向けのコミュニティを構築することで、ブランドアフィニティ強化を実現できます。
既存顧客同士が交流できるコミュニティを構築することで、製品・サービスが提供する価値とは別に、付加価値の高い体験を提供することが可能です。
SNSグループや会員制サイトは勿論、顧客限定の定期イベントなどを開催することで、ブランドユーザーのコミュニティを構築できます。
コミュニティでは顧客同士の交流に加え、企業と顧客間のコミュニケーションも自由に行えるため、効率的にブランドアフィニティを強化できるでしょう。
また顧客から直接意見や要望などを聞く機会にもなるため、より良い体験や価値の創造に向けたアイデアを得る場としても活用できます。
ブランドロイヤリティを高めた事例
最後にブランドロイヤリティを高めた事例をご紹介します。
1.コンテンツによってブランドロイヤリティを高めた大建工業
まずご紹介するのは、大建工業株式会社の事例です。
大建工業は、「DAIKEN魂!」というオウンドメディアを運営し、コンテンツマーケティングに取り組むことでブランドロイヤリティの向上を図っています。
引用:DAIKEN魂!は大建工業のサステナビリティを発信しています
DAIKEN魂!では、大建工業の企業理念や大切にしている価値観を感じられるコンテンツが提供されています。
具体的には「大建工業がこれまでどういった取り組みを行ってきたのか、どのような姿勢や考え方で経営してきたのか」をインタビューコンテンツとして提供しているのです。
これらのコンテンツを通じ、大建工業のブランドの理解促進やブランドロイヤリティ向上を実現していると言えるでしょう。
2.ロイヤリティプログラムを駆使したウォルマート
次にご紹介するのは、世界最大のスーパーマーケットチェーンを展開するウォルマートの事例です。
ウォルマートは、2019年から「Delivery Unlimited」というロイヤリティプログラムの導入を開始しました。
Delivery Unlimitedでは、食料雑貨宅配サービスの年額・月額の料金を支払うことで、注文ごとの配達料金が無料になります。
配達料金は一回当たりの金額はそこまで高くありませんが、高頻度で使う顧客にとって大きな負担となり得るでしょう。
Delivery Unlimitedはそういった顧客の悩みを上手く解決し、実際に業績37%アップを実現したのです。
2020年からは本プログラムをベースに、即日無料配達や無接触購入システムなどを取り入れた「Walmart +」として再構築され、さらなるブランドロイヤリティ向上を目指しています。
3.緻密な顧客サポートを展開するソニー損保
事例の最後にご紹介するのは、自動車保険を提供するソニー損害保険株式会社です。
ソニー損保は緻密な顧客サポートを展開することでブランドロイヤリティを高め、JCSI(日本版顧客満足度指数)の2023年度調査において、4年連続で業界1位の成果を実現しています。
その背景には2019年に創設されたCXデザイン部があります。
CXデザイン部を起点に、顧客にとって価値のある「ソニー損保ならではの違い」の実現に向けて、様々な取り組みを実施しているのです。
具体的には、契約手続きやアフターフォローまで対応するカスタマーセンターをはじめ、以下のような仕組みによって細かなサポートを実現しています。
・お客様相談室:顧客の意見や相談に一つ一つ丁寧に対応する
・サービスセンター:事故発生時に必要な対応について丁寧なサポートを行う
・ロードサービスデスク:24時間365日体制で事故・故障時のサポートを行う
これらの顧客対応に加え、顧客の意見をしっかりと取り入れたサービス開発などを通じて、高いブランドロイヤリティを実現していると言えるでしょう。
まとめ
人口減少によって新規顧客を獲得する難易度は年々高まっています。
そのため、あらゆる企業は既存顧客のブランドロイヤリティを高め、自社の製品・サービスを中長期にわたって利用してもらうための施策を講じる必要があるでしょう。
ブランドロイヤリティを高めるには、ブランドアイデンティティの確立や顧客に対するきめ細やかなサポートなど、様々な取り組みが求められますが、その工数に見合った大きな成果を得られます。
ぜひこの記事を参考にブランドロイヤリティの向上に取り組んでみてください。
ライタープロフィール
神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長
創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。