ブランドエクイティとは?定義や構成要素、確立するメリットまで分かりやすく解説
ブランディング
ブランディングを行う際に重要な「ブランドエクイティ(Brand Equity)」という考え方をご存じでしょうか。 本記事ではブランドエクイティの定義やブランドロイヤリティなどとの違いなどを踏まえ、確立するメリットや構成要素をご紹介します。 ブランドエクイティを確立するまでの流れや測定方法、事例なども併せて解説していますので、ぜひ最後までご確認ください。
ブランドエクイティとは
まずはブランドエクイティの定義や関連概念との違いについてご紹介します。
ブランドエクイティの定義と源泉
ブランドエクイティとは「ブランドの資産価値」を表す言葉です。
カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院のデービッド・アーカー名誉教授が1991年に著した「ブランド・エクイティ戦略」で発表しました。
またアーカー氏と並ぶブランド論の権威であるケビン・レーン・ケラー氏は、顧客の視点から捉えたブランドエクイティ(顧客ベースのブランドエクイティ)について、以下のように定義しています。
“あるブランドのマーケティング活動に対する消費者の反応にブランド知識が及ぼす差別化効果”
(引用:エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント)
ブランドエクイティは、「ブランドへの高いレベルでの認知」と「ポジティブなブランドイメージ」を源泉として形成されます。
この高いレベルでの認知とポジティブなイメージを獲得するために、企業はブランディングに取り組むことになるのです。
ブランドエクイティと関連概念との違い
ブランドエクイティには関連した概念が複数あります。
ここで各概念の概要を踏まえて、ブランドエクイティとの違いを確認しましょう。
ブランドロイヤリティとの違い
ブランドロイヤリティとは、顧客がブランドに対して抱く忠誠心や愛着心を意味する概念です。
ブランドロイヤリティが高い顧客は、競合製品・サービスにスイッチしにくくなり、中長期にわたって自社の製品・サービスを愛用してくれます。
そのため顧客のLTV(Life Time Value/顧客生涯価値:顧客が生涯において企業にもたらす価値・利益)の最大化に繋がる重要な要素になるのです。
ブランドロイヤリティはブランドエクイティの構成要素の一つであり、その中でも特に重要な概念であると言えるでしょう。
関連記事:ブランドロイヤルティとは ブランドを愛するリピーターを増やす
ブランドアイデンティティとの違い
ブランドアイデンティティとは、ブランドが提供する価値や世界観などを表した概念です。
ブランド構築における中核的な概念となり、ブランドアイデンティティを基に、顧客に伝えるべきメッセージや製品・パッケージのデザインなどが決定付けられます。
ブランドアイデンティティは「企業が顧客に抱いてほしいイメージ」とも言え、ブランドエクイティの構成要素の一つであるブランド連想と密接な関係がある点は留意しておきましょう。
ブランドエクイティの構成要素については後ほど改めてご紹介します。
関連記事:ブランドアイデンティティとは?構成要素や作り方まで分かりやすく解説
ブランドイメージとの違い
ブランドイメージは「顧客がブランドに対して抱くイメージ」です。
ブランドアイデンティティと対をなす概念と言え、ブランドアイデンティティ(顧客に抱いてほしいイメージ)とブランドイメージ(顧客が実際に抱くイメージ)のずれを無くす作業がブランディングと言えるでしょう。
ブランドイメージもブランド連想と関連の深い概念となります。
ブランドエクイティを確立するメリット
続いてブランドエクイティを確立するメリットをご紹介します。
メリット①:信頼度の向上
ブランドエクイティが確立されることで、ブランドに対する信頼度が向上することが見込まれます。
ブランドエクイティが高い企業は、そのブランドがもたらすポジティブなイメージや認知が、顧客の認識や評価に多大な影響をもたらします。
例えば大手メーカーのブランド化粧品と無名の化粧品があったとして、仮に効用が全く同じであっても、大多数の方は前者を選ぶでしょう。
これは大手メーカーのブランドエクイティが高く、顧客から信頼されているからです。
このようにブランドエクイティを構築することで、顧客からの信頼を得やすくなり、購買選択にプラスの影響を与えられるでしょう。
メリット②:競合他社との差別化
ブランドエクイティは競合他社との差別化にも大いに貢献します。
ブランドエクイティは、ブランドが提供する独自価値やそれに起因したブランドイメージなど、様々な独自要素が絡み合って形成されます。
そのため一度ブランドエクイティが形成されると、競合との明確な差別化要素として中長期にわたって機能し、顧客に選ばれる理由として提供できるのです。
メリット③:ロイヤルカスタマーの獲得
ロイヤルカスタマーの獲得がしやすくなる点も、ブランドエクイティを確立するメリットとして挙げられるでしょう。
ブランドエクイティが確立されていることは、「製品・サービス品質に定評があり、多くの人から受け入れられている」という証明にもなります。
そのためブランドエクイティが確立されている製品・サービスは、新規顧客から高い評価を得やすく、そのまま継続利用するロイヤルカスタマーへと変化させやすいのです。
メリット④:新規顧客の獲得
ブランドエクイティが確立されることで、新規顧客の獲得も実現できます。
何か新しい製品・サービスを利用する際、顧客はできる限りリスクの少ないものを選ぶ傾向にあります。
そのためすでに別の顧客から評価を得ているブランドや、見聞きしたことがあるブランドを優先的に選択するのです。
ブランドエクイティが確立された製品・サービスは、そういった局面で選ばれる可能性が非常に高くなるため、効率的に新規顧客の獲得に繋げることができます。
メリット⑤:価格プレミアムの実現
ブランドエクイティが確立されれば、価格プレミアムを実現することも可能です。
価格プレミアムとは、「消費者が他ブランドの製品よりも多く払っても良いと考える価格」のことであり、ブランドエクイティが高い企業ほど、この価格が大きくなります。
ブランド自体に価値を感じ、高い価格を払ってでも入手・利用したいと思う顧客が増えるためです。
そのため価格競争に陥らず、高い利益率や売上を獲得でき、企業経営を安定化させることができるのです。
【補足】顧客側のメリットは?
ブランドエクイティを確立することは企業だけでなく、顧客にとっても大きなメリットがあります。
具体的には、製品・サービスを利用するかどうか検討する際にかかる負担や不安を軽減できるのです。
本来購買を検討する際は、製品・サービスに関する情報を幅広く集めて分析しつつ、他社製品・サービスなどとも比較検討しなければなりません。
この作業には「品質の低い製品を買ってしまったらどうしよう」といった心理的な負荷は勿論、情報収集や分析を行う物理的な負荷がかかってきます。
しかしブランドエクイティが確立されている製品・サービスは、既に品質が証明され、他顧客からも信頼されていると考えられるため、そこまで深く検討しなくても購買行動に移ることができるのです。
ブランドエクイティを確立する際の懸念点
ブランドエクイティを確立すれば様々なメリットが得られますが、その一方で以下のような懸念点が挙げられます。
懸念点①:中長期にわたる取り組みが必要
懸念点としてまず挙げられるのは、中長期にわたる取り組みが必要であるという点です。
ブランドエクイティは、顧客からの認知を拡大するとともに、ポジティブなブランドイメージを獲得することで、徐々に形成されていきます。
一朝一夕で確立できるものではなく、数年〜数十年にわたって、ブランドアイデンティティを基盤とした企業活動を展開する必要があるのです。
懸念点②:高度なブランディングのノウハウが必要
高度なブランディングノウハウが求められる点も挙げられます。
ブランドエクイティを確立するには、ブランドマネジメントやコンセプトメイキングなど、様々な専門的なノウハウが必要となります。
こういったノウハウが社内に不足している場合、時間や費用を投資しても、ブランドエクイティを確立することは難しいと言えるでしょう。
懸念点③:推進体制の構築が不可欠
懸念点の最後に挙げられるのは、推進体制の構築が不可欠であるという点です。
ブランドエクイティの確立には、製品・サービスを開発する企画・技術、プロモーションを担当するマーケティング、顧客に売り込む営業など様々な部門が関わります。
そのためブランドアイデンティティを基盤に各部門に横串を通して、ブランドマネジメントを行うチームを設置するなど、推進体制を構築する必要があるのです。
アーカーによるブランドエクイティの構成要素
デービッド・アーカー教授が提唱したブランドエクイティは下記の5つの要素で構成されています。各要素のスコアを高めることが、ブランドエクイティ向上に繋がります。
1. ブランドロイヤリティ
2. ブランド認知
3. ブランド連想
4. 知覚品質
5. その他のブランド資産
先程解説したブランドロイヤリティ以外の各要素について簡単にご紹介します。
ブランド認知
ブランド認知とは、ブランドがどれだけの顧客に認知されているかを示す概念です。
ブランド名が広く認知されることが、ブランドに対する信頼感の醸成に繋がります。効率的な認知拡大のためには、ブランドのターゲット層に合わせた伝達方法を活用することが大切です。
ブランド認知は「知名度」と同じと思われがちですが、「知名度」は主に企業名やブランド名が知られていることを指し、ブランド認知は「そのブランドについてどれだけ深く知られているか」を指します。
ブランド名を知っているだけの状態では潜在顧客が製品・サービスを選択する際の決め手として弱いため、ブランド認知を高めていくことが重要になります。
関連記事:ブランド認知とは 知ってもらうことがブランディングの第一歩
ブランド連想
ブランド連想とは、ブランドに触れた際に顧客が連想するイメージのことです。
例えばスターバックスであれば「リラックスできる時間」や「上質なコーヒー」、「ノマドワーカー」といったブランド連想が生じやすいと言えます。
思い浮かぶものが多いほど、ブランドの浸透が進んでいる証となります。
ブランド連想を向上させるためには、TVCMや広告、WEBコンテンツでブランドストーリーを伝えるといった方法があります。
知覚品質
知覚品質とは顧客が認識しているブランドの品質のことです。
企業側がいかに品質に自信を持っていても、顧客がそう感じていなければ意味がなく、品質の信憑性を高めるための伝える努力が必要となります。
知覚品質を正しく認識してもらうには、顧客の活用事例や具体的なエビデンスを添えた訴求が有効になるでしょう。
その他のブランド資産
ブランドが持つ特許や商標などもブランドエクイティの構成要素の一つです。
他にもブランドを支える自社独自の技術や取引先との良好な関係性なども、ここに含まれるでしょう。
【補足】ブランドエクイティと購買行動モデルの関連性
ブランドエクイティは、顧客の購買決定のプロセスを表現した「購買行動モデル」に照らし合わせると強い関連性があることが分かります。
購入購買モデルには様々な種類がありますが、ここではインターネット時代の購買行動モデル「AISAS(アイサス)」に当てはめてみます。
《購買行動モデル(AISAS)とブランドエクイティの関連性》
(1)注意・認知
顧客が製品やサービスの存在を知る際には「ブランド認知」が重要。
リピーターには「ブランド連想」が効果あり。
(2)興味・関心
顧客が製品やサービスに興味をもってもらうには、「ブランド認知」「ブランド連想」が重要になる。
(3)検索
顧客が製品やサービスを調べる際には、「ブランド認知」「知覚品質」の高さが重要。
(4)行動
顧客が実際に製品やサービスの購入を決断する際には、「知覚品質」が高ければ高いほど有利になる。
(5)共有
顧客が製品やサービスに満足し、SNSやレビューで情報を共有するには「ブランドロイヤリティ」の高さが重要となる。
このように、ブランドエクイティの各要素が、顧客の購買行動の様々な場面に影響していることが分かります。
これらの質を高めていくことが、ブランドの持つ資産価値の充実に繋がり、ブランディングを成功に導くと言えるでしょう。
ケラーによる「顧客ベースのブランドエクイティ」の構成要素
次にケビン・レーン・ケラー氏が提唱した「顧客ベースのブランドエクイティ(Customer-Based Brand Equity/CBBE)」の構成要素を確認しましょう。
ケラー氏は顧客ベースのブランドエクイティの構成要素として、以下の3点を挙げています。
1. 差別化効果
2.ブランド知識
3.マーケティングへの消費者の反応
それぞれ見ていきましょう。
差別化効果
ケラー氏はブランドエクイティを、「消費者の反応の違いによって生まれてくる」と捉えています。
消費者の反応に違いがなければ、たとえブランドネームを有した製品・サービスであっても、コモディティ化した製品と変わらず、価格競争に陥ってしまうと考えたのです。
そのためブランドエクイティの中でも特に重要な要素として、差別化効果を据えていると言えるでしょう。
ブランド知識
ブランドエクイティによる差別化効果は、顧客が有するブランドに関する知識に起因して生じます。
ブランド知識は、消費者がこれまでの人生において、そのブランドに対して見聞きしたり、感じたりした内容を基に形成されます。
このブランド知識がポジティブなものであれば、それだけブランドエクイティも強固なものになるのです。
マーケティングへの消費者の反応
顧客のブランド知識は、企業がこれまでどのようなブランディングやマーケティング活動を行ってきたかに左右されます。
ブランドアイデンティティを軸に、あらゆる顧客接点において一貫した活動を続けていれば、ポジティブなブランド知識を形成しやすくなるでしょう。
逆に軸が定まっていない活動をしてしまえば、各接点におけるブランドイメージにばらつきが生じ、正しいブランド知識が育まれないのです。
そのため広告のキャッチコピーやオウンドメディアのデザイン、営業担当者のアプローチなどにおいて、ブランドアイデンティティで横串を通す必要があるでしょう。
ブランドエクイティを確立するまでの流れ
ここからはブランドエクイティを確立するまでの流れとして、ケラー氏が提唱するブランドレゾナンスモデルをご紹介します。
ブランドレゾナンスモデルの概要
ブランドレゾナンスモデルとは、顧客と良好なリレーションシップを築くための方法論です。以下の4つのステップを踏むことでブランドを構築し、ブランドエクイティの確立を目指します。
1. ブランドアイデンティティの確立
2. ブランドミーニングの構築
3. ブランドレスポンスの獲得
4. リレーションシップの創出
ケラー氏は同モデルを以下のようなピラミッドによって整理しています。
図:ブランド・レゾナンス・ピラミッド(エッセンシャル 戦略的ブランド・マネジメントを基に制作)
それではブランドエクイティの構築段階を一つずつ見ていきましょう。
ステップ①:ブランドアイデンティティの確立
ブランドエクイティを構築するには、まずはブランド認知を獲得する必要があります。
ブランド認知を獲得するには、顧客に「こういったブランドです」と正しく伝えなければなりません。
この際、基盤となるのがブランドアイデンティティなのです。
まずは顧客が抱くであろう「どんなブランドなのか?」という問いに応えるべく、自社の理念や価値観、目指したい世界観などを整理し、ブランドアイデンティティとしてまとめましょう。
その上でブランドアイデンティティをあらゆる顧客接点で訴求し、顧客のブランド認知を拡大していく必要があります。
関連記事:ブランドアイデンティティとは?構成要素や作り方まで分かりやすく解説
ステップ②:ブランドミーニングの構築
次にブランド差別化ポイントを理解してもらうために、ブランドに対して意味付けを行います。
ブランドアイデンティティを正しく理解してもらえるようにコミュニケーションを図るとともに、ブランドがどういった価値を提供しているのかを明示しましょう。
この段階の取り組みによって、ブランドエクイティにおける知覚品質やブランド連想を含めた、ブランド知識を形成していきます。
ステップ③:ブランドレスポンスの獲得
ブランドの知覚品質や特定の連想を認識した顧客は、そのブランドに対して意見や評価を行います。
この段階でポジティブな反応を引き出すことができれば、その顧客との間に良好な関係性を築き、高いブランドロイヤリティを形成できる可能性があるでしょう。
逆にネガティブな反応だった場合、そこで顧客は離脱してしまうのです。
そのためこの段階では、できる限りポジティブな反応を引き出すことを目指し、製品・サービスの改良やコミュニケーションの改善に努めることになるでしょう。
ステップ④:リレーションシップの創出
構築ステップの最後はリレーションシップの創出です。
ポジティブな反応を示した顧客に対して、ブランドとして「今後どのように関わっていきたいのか、どういった関係性を構築したいのか」を考えます。
その関係性を実現するために様々な施策に取り組むことで、ブランドロイヤリティの向上や強固なリレーションシップの構築がなされ、ブランドエクイティが確立されるのです。
【補足】ブランドエクイティの確立には社内教育も必須
ブランドエクイティは先の流れに沿って取り組むことで確立できますが、その成否を左右するのは、従業員のブランド理解にあると言えます。
従業員がブランドアイデンティティをはじめ、自社のブランドに関してどれだけ正しい理解を持っているかによって、顧客とのコミュニケーションの精度が大きく変わるためです。
そのため、従業員に対してブランド説明会や勉強会を実施したり、社員向けブログなどでブランドに関する情報を発信したりすることで、社内にブランドを浸透させることが重要になるでしょう。
ブランドエクイティの測定方法
ここからはブランドエクイティを測定する方法をご紹介します。
NPSを用いた評価の可視化
まずご紹介するのはNPS(Net Promoter Score)を用いた測定方法です。
NPSでは、顧客に「ブランドについて、友人や知人にどれくらい勧めたいか」を質問し、0〜10の11段階で評価してもらいます。
その回答に応じて以下のように顧客を分類するのです。
・9〜10:推奨者
・7〜8:中立者
・0〜6:批判者
その後、推奨者の割合から批判者の割合を差し引き、NPSを割り出します。
例えば100人に質問を行い、60人が推奨者、20人が批判者だった場合、以下のように計算できるでしょう。
NPS=(60÷100×100%)−(20÷100×100%)=40
NPSは元々顧客満足度やブランドロイヤリティを概算する際に用いられる指標ですが、ブランドエクイティを大まかに掴む上では重宝するため、ぜひ活用してください。
ブランドリプレイス費用からの概算
続いて挙げられるのはブランドリプレイス費用から概算する方法です。
ブランドリプレイス費用とは、ブランドの立ち上げから認知拡大を行い、顧客獲得やリピート購買を実現する上でかかる費用のことを指します。
具体的にはブランディング用のキャッチコピー制作費はもちろん、広告費用やWebサイトの運用費、ブランディングチームの人件費などが挙げられるでしょう。
これらの費用を合算した金額を、ブランドエクイティの価値として捉えるのです。
ブランドリプレイス費用を用いた測定方法も、正確なブランドエクイティの把握は難しいと言え、あくまで概算となる点はご留意ください。
財務情報を用いた概算
次に挙げられるのが、財務情報を用いた方法です。
具体的には企業の「のれん」を算出し、ブランドエクイティを概算します。
「のれん」とはブランドや従業員の経験などの無形資産を指します。
買収される企業の純資産額と、実際に買収される際の価格との差額として算出することが可能です。
この「のれん」の金額をブランドエクイティの価値として扱うのです。
「のれん」には従業員のノウハウや経験といった、ブランド以外の価値も含まれるため、こちらも大体の価値を捉えることしかできません。
インターブランドが提唱する測定方法
測定方法として最後にご紹介するのは、世界最大のブランディング会社インターブランドが提唱する測定方法です。
インターブランドが提唱するブランド価値測定方法は、国際標準化機構(ISO)からISO10668の認定を受けており、事実上の世界標準となっています。
インターブランドの測定方法では、以下の3つの観点でブランド価値を評価します。
1. 財務分析:企業が生み出す利益の将来予測
2. ブランドの役割分析:利益におけるブランドの貢献分を抽出
3. ブランド強度分析:ブランドによる利益の確実性を評価
これら3つの観点の分析結果を統合することで、他の測定方法よりも正確なブランドエクイティの測定を実現しているのです。
ただし本測定方法はブランドに関するノウハウなども相応に必要となるため、比較的難易度が高いという課題があります。
参考:本ランキングの評価方法について - インターブランドジャパン
ブランドエクイティを「WEB社外報」で構築 成功事例5選
スマートフォンの普及も相まって、WEBサイトやSNSを利用して社外報(WEB社外報)を作り、ステークホルダーエンゲージメントを向上させる企業の取り組みが増加しています。
ここでは、WEB社外報としてオウンドメディアを構築し、運用している企業事例をご紹介します。
事例①:ヤンマー「Ymedia」
ヤンマーはブランドステートメント(ブランドの理念・使命)として“SUSTAINABLE FUTURE”を掲げています。
ブランドステートメントWEBページではサスティナブル動画が掲載されています。この動画ではブランドステートメントをコンセプトにして、エンジン、農業、建設機械、マリン関連、熱・電気供給、これらの事業領域で最大の豊かさを最小の資源で実現することを表明しています。
人がいつまでも豊かに暮らせること、自然がいつまでも豊かでありつづけること。そのどちらも考えなければ、未来とはいえない。次の100年のために。ヤンマーのサスティナビリティのコアを表現した動画になっています。
またブランドステートメントを軸にした「Ymedia」というWEBメディアを運用しています。
コンテンツはWEBサイトTOPページに表示されており、その重要性がうかがえます。WEBサイトだけでは伝えきれないヤンマーの考え方、未来の見方、現在の活動をコンテンツにしてステークホルダーに配信しています。読者にはヤンマーの本気度が伝わる内容になっています。
これぞ企業ブランディングといえる代表事例です。
事例②:クボタ「Kubota Press」
クボタはサスティナビリティページに加え、会社の将来性・活動をより分かりやすく伝えるために「Kubota Press」というWEBマガジンを運用しています。
サスティナビリティページでは伝えきれないクボタの将来の目標、現状の取り組み、社会問題(食料不足、水不足、人手不足)の具体的な紹介など記事と取材を交えて配信。クボタの取り組みや考え方がより具体的にわかり、持続的成長に期待させられる内容です。
このようにサスティナビリティコンテンツをステークホルダーに定期的にお届けすることで、コミュニケーションを絶やさず共通価値を築けます。
クボタの先進的なアイデンティティを感じさせる企業ブランディングの成功例です。
事例③:ダイワハウス「SUSTAINABLE JOURNEY」
ダイワハウスはWEBマガジン「SUSTAINABLE JOURNEY」を運営しています。
このマガジンのコンセプトは世界中のアイディア溢れるサスティナブルな取り組みを紹介し、次世代のライフスタイルを考えるメディアです。住宅企業としてのダイワハウスの意識の高さがうかがえます。
テーマは「サスティナブル」とし、カテゴリを”人・街・暮らし”に設定します。
急速に変化する世の中、私たちの生活も地球のサスティナビリティを考え変化させていかなければなりません。今後の生活をどのように変えていけばいいのか参考になる記事・取材記事が多く掲載されており、住宅企業として人々のライフスタイルにヒントをくれるメディアになっています。
コンテンツに触れることで読者はダイワハウスのサスティナビリティを自然に体感できるCSRブランディングの成功事例です。
事例④:みずほ銀行「未来想像WEBマガジン」
みずほ銀行はWEBマガジン「未来想像WEBマガジン」を運用しています。
コンセプトは“未来へのヒントが見つかるウェブメディア”。未来想像WEBマガジンは、これからの未来を前向きに生きていくために、未来を考え、未来を自分ごと化し、未来を想像するための世の中の変化を始め、ライフデザインやトレンドやお金など様々な情報を提供していく未来特化型のウェブメディアです。
急速に変化する世の中、人生の送り方、ライフイベント、お金との向き合い方にも当然変化があります。
生活者にこれからのライフスタイル情報を配信し、みずほ銀行の信用と信頼を積み重ねるためのメディアになります。
長期的な目線で考えられた企業ブランディングの好事例です。
事例⑤:オカムラ「ACORN」
オフィス環境事業を生業とするオカムラは「ACORN」というWEBメディアを運用しています。
ブランドステートメントは「自然共生と生物多様性に向けたアクション」を「ACORN(エイコーン)」と名づけ、積極的に取り組んでいます。
「ACORN」は英語でどんぐりを意味する言葉です。次の種をつなぐために、なくてはならない存在であるどんぐりを、オカムラの活動の象徴としました。
私たちの暮らしや企業活動は、自然環境や多くの生物の営みの連鎖(=生物多様性)によって支えられています。
持続可能な社会の実現をめざすオカムラは、これらの環境を守り育てることへの貢献を使命と考え、その活動をWEBメディアで発信しています。
ご紹介した5つの企業はみな、企業アイデンティティを伝えるためにWEBメディアを基幹とした企業ブランディングに注力しています。
そこには自社ホームページのみでは伝えきれない企業の文化・キャラクター・考え方が色濃く反映され、サスティナビリティをさまざまな角度から表現しています。
そして読者はステークホルダーになり、生活者、クライアント、投資家、従業員、関連企業の方々との共通認識を作っていくことができます。
企業が新しいサービスや製品を生み出した際もアイデンティティをよく理解した読者は応援者となってくれることでしょう。
RHCがおすすめする企業ブランディング
企業ブランディングと聞くとTVCMや大規模キャンペーン、イベントなど敷居が高いイメージがありましたが、近年はインターネットやスマートフォン、SNSの普及によりWEBブランディングが非常にやりやすくなりました。
RHCがお勧めするブランディング手法はコンテンツマーケティングを使ったWEBブランディングです。
コンテンツマーケティングは自社メディアの企業のオウンドメディアを軸にしてSNSなどのコミュニケーションツールを使い、ブランド認知を高めていく手法です。
ターゲティングがしやすく、エンゲージメントを高めることもしやすいWEBブランディング手法となります。
まとめ
企業ブランディング(コーポレートブランディング)とは「企業が理念を元にどういった目標を持って社会の役に立っていくのか」という意思表明です。
ジョン・ディアのように、自社の営利の前にどのようにして消費者(顧客)のお困りごとを解決し社会に貢献できるのかを考える。ステークホルダーとスクラムを組み一緒に課題を解決する姿勢こそが企業のブランドの認知・認識につながります。
このような認知・認識は競合他社との差別化に大きく寄与するものとなります。これこそが「企業ブランディング」であると考えます。
ライタープロフィール
神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長
創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。