社会と会社を幸せにする、サーバント・リーダーシップ 細田悦弘の企業ブランディング 〈第39回〉
ブランディング
ぐいぐいと引っ張るリーダーから、支えるリーダーへ。権力ではなく、権威で動いてもらうリーダーへ。企業は関わる人々に対し「サーバント・リーダーシップ」を発揮し、共感と信頼を獲得することで、持続的成長・中長期の企業価値向上につながります。これからの企業経営に向けて、社会と会社を幸せにするための視点として、「サーバント・リーダーシップ」という考え方を取り上げます。
「サーバント・リーダーシップ」って、何?
新しい言葉のように聞こえるかもしれませんが、以前からある概念です。1970年に、元AT&T(アメリカ電話電信会社)のロバート・K・グリーンリーフ博士が提唱した、あるべきリーダー像です。「サーバント(servant)」と「リーダー(leader)」が合わさると、対極のものとして若干の違和感がある方もいらっしゃるでしょう。ふつう「サーバント」という言葉は、「従者」や「召使い」を示し、「リーダー」は、通常「指導者」や「導き手」の意味で使われるので、一見相容れないようです。グリーンリーフは、サーバントを「尽くす人」「奉仕する人」として捉え、まわりの人々に、そういう意味でのサーバントとして接することがリーダーの基本姿勢だと主張しました。
最初に尽くしたい(奉仕したい)という自然な感情に始まる。まずはそれを実践し、その後でリーダーとしての役割も果たさなければならない、と考えるのが「サーバント・リーダーシップ」です。従来のリーダーが、まずは相手の上に立って相手を動かそうとしがちなのと対照的な概念です。
この驚くべきパラドックスは、現代における企業と社会(従業員を含むステークホルダー)との関係を考える上でも、新たな気づきが得られる慧眼(けいがん:物事の本質を見抜く力・洞察力)につながります。
現代社会における、企業のサーバント・リーダーシップ
サーバント・リーダーのことを、そのまま「召使い型リーダー」とすると、ただ尽くしさえすれば、まわりがついてくると捉えられがちですが、「リーダー」という言葉に深い意味あいがあります。それは、夢やミッション・ビジョンの実現です。リーダーは、自分が達成すべきことや夢に対して強い使命感を持ち、それを実現するために、自らの意志でサーバントに徹するのです。実現を望む社会的なミッションを奉仕の名のもとに掲げ、自分についてくる人(フォロワー)たちに尽くす。それが、サーバント・リーダーの姿です。
企業には、存在意義ともいえる経営理念やパーパス(Purpose)があります。企業はそれを実現するために、関わる人々(従業員を含むステークホルダー)とともに事業活動を行なっています。企業が究極的に実現したい目的のために協力してくれる人々に尽くそうと思うのは当たり前のことです。
サーバント・リーダーシップとサステナビリティ
サーバント・リーダーシップでは、企業の第一の目的は、唯一の動機である利益の追求だけではなく、社会に建設的な影響(ポジティブ・インパクト)をもたらすことでなければならないとされます。サステナビリティ(Sustainability)の根幹には、社会に対して負の影響を抑え、正の影響を醸し出すという、変わりゆく『社会への対応力』があります。
企業が、現代も次世代においても「社会を幸せにしたい、社会を豊かにしたい」という理念を掲げるならば、そのために、社会(ステークホルダー)に誇り高く奉仕する。そのことが、社会からの共感を生み、信頼を獲得できれば、企業もまた、持続的成長・中長期の企業価値向上につなげられるといったストーリーが成立します。奉仕者であり、リーダーであるというのは、共存可能です。奉仕の精神で人々を導き、社会変革を促すことが、社会のメインプレーヤーである企業に求められています。
パーパス実現に向け、社会と会社が幸せになれる
企業社会では、リーダーは力強く引っ張る人だと思われがちですが、サーバント・リーダーは、そうではなく、パーパス実現に向かって自発的に取り組む人を後押しします。それは使命感に基づいてなされる高貴な行動であり、組織の目標を達成させる大きな力となります。パーパスに基づき、会社が社会のために奉仕すれば、社会が会社に共感し、支持や信頼がもたらされます。そして会社は、パーパスを実現しようとする社員や取引先を支えることで、これまで以上に相互信頼が育まれ、結果として、社会と会社が幸せになれます。
このサーバント・リーダーシップという考え方は、現代の企業とステークホルダーとの関係のあり方に大きな示唆を与えてくれます。時代に選ばれ、次代にも輝きつづける企業であるための戦略メソッド「サステナブルブランディング」にも資する卓見(優れた見識)です。
ライタープロフィール
細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)
公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。