効果的なインナーブランディングを進めるために その意義と手順
ブランディング
インナーブランディングとは
この「RHCブランディングnote」をご覧いただいている皆様なら、「インナーブランディング」とは何なのか、十分ご理解いただいていると思います。
「インナーブランディング」の類義語に「インターナルブランディング」があります。英語のInnerは「内側の」「内的な」という意味があり、対義語であるOuterは「外側の」「外見的な」という意味になります。
一方、Internalは「内部の(社内の)」、対義語のExternalは「外部の(社外の)」というニュアンスを持つ言葉です。
言語学的に見ると厳密には違うのかもしれませんが、ビジネス用語としてはほぼ同義と考えて良いでしょう。RHCブランディングnoteでも両方の用語が出てきますが、どちらも同じ意味で使っていると理解していただいて構いません。企業や組織の外側に向けたブランドコミュニケーションに対して、社内の組織・部署や従業員個々に向けてブランディング活動を展開する行為、それが「インナーブランディング」です。
インナーブランディングの重要性が増してきた背景
関連記事:ブランディングとは 誰にでもわかる定義とその手順 -効率的・効果的にブランディングを進めるために
上記のブランディングnote記事でも述べているように、ブランディングの中心には核となる理念が不可欠です。それを明確化し、インターナルブランディング(=インナーブランディング)により社内で共有するプロセスを経て、経営資源/資産であるヒト・モノ・コト・メディアを戦略的かつ有機的に組み合わせ、ビジネスモデルを創っていきます。そして、企業やブランドはそのビジネスを通じて外部社会にコミュニケートし、ステークホルダーとの関係性を構築していくのです。このプロセスがエクスターナルブランディング(=アウターブランディング)です。
※下図参照
一般に「ブランディング」というと、外部に働きかけるアウターブランディングをまずイメージする人も多いでしょう。しかし、インナーブランディングの重要性を認識し、実践している企業も少なくありません。近年はその傾向が一層加速しています。
背景要因のひとつとして、コロナ禍があることは間違いありません。政府による働き方改革推進の後押しも受けて、従来に比べ在宅・リモート勤務が急速に普及しました。社屋で日常的に直接顔を合わせ、会話を交わすなどして五感で雰囲気を体感する会社生活から、勤務のスタイルが大きく変わったわけです。このことは、企業と従業員の関係性に変化をもたらしました。これまでは「特に言わなくてもわかる、なんとなく感じ取れる」と思われていた会社の文化やビジョン、社風や理念などを、より明確に、意識的に伝達・共有していく必要性が高まったのです。
副業の奨励や雇用契約形態の多様化も、被雇用者の帰属意識を薄め、人材の流動化を進める潮流に一役買っています。そのような中、インナーブランディングは従業員の心理的な一体感を形成し、ブランドとの関係性を強化すると共に、企業や商品・サービスの価値をブレることなく社会に伝えていく人的媒体(メディアパーソン)を育成する上でも重要な役割を果たします。
企業やブランドと同じベクトルを共有しつつ、自主的・自律的に動ける社員を育てるインナーブランディング。それは従業員をブランディングの即戦力にすると同時に、表面的でなく人との関係性を大切にする企業である、との評価に還流していくものでもあるのです。
関連記事:いま注目されている「企業ブランディング(コーポレートブランディング)」とは|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
インナーブランディングの進め方
インナーブランディングは「自分たちが何を目指し、どのような価値を社会に提供していくのか」という、ブランドの根幹部分を社内の全員が理解し、共感・共有することが最初の段階です。そして次の段階では「自分が担当する職務において、どのような行動表現を行えばブランドの目指す領域と合致するのか」を考え、実践します。実践の結果は常にフィードバックされ、ブランドビジョン実現に向けてより精緻化するサイクルを形成します。具体的には、以下のようなプロセスです。
社内の現状を知る
まず、「社内のブランド理解や浸透度がどのレベルなのか」、そして「対外的なブランドのコミュニケーション状況はどうなのか」を知る必要があります。企業の目指すブランドイメージやビジョンが社内によく知られている場合と、まったく周知されていないのとでは、展開する施策が異なってくるからです。
現状を把握するためには、例えば社内でアンケート調査やインタビューなどを実施し、以下のような設問で浮き彫りにしていきます。
・現在の自社・自ブランドにどのようなイメージを抱いているのか
・会社やブランドが掲げる理念・メッセージを理解しているか
・今後、自社・自ブランドが目指すべき領域はどのようなものだと思うか
・現在発信しているメッセージと現状とのギャップ、あるいは目指すべき領域とのギャップは何か
アンケートは小規模組織であれば全数調査、難しければ部署や地域、年齢性別など属性の偏りをなくしたサンプル抽出型でもかまいません。インタビューは対象者を適切に選定し、トップ・ミドル・現場・新人などの職階に応じて個別面談やグループインタビュー、座談会方式などを組み合わせて行うとよいでしょう。
またミステリーショッパー(覆面調査)形式で事業所や店舗を訪れ、そこでの視覚的コミュニケーション(店舗外観、看板サイン、車両、掲示物、名刺や封筒など)を記録し、やはり現状と理想のギャップや、望ましくない状況の把握、良い事例の収集などに努めます。同様に広報・広告物、社内メディア(社内報や通達、社員手帳、webメディアなど)におけるコミュニケーション状況も把握します。
ひととおり情報を収集したら、次はそれらを評価する段階です。
現状がどのようなポジションにあり、目指すべき領域とのギャップはどうだったのか、という観点を再認識します。
核となる理念を明確化する
核となる理念要素が既に明確になっている場合は、その理解度や浸透度を図ることができます。しかし、なんとなく存在しているが明文化されていない場合や、そもそも理念やビジョンらしきものが設定されていない、というのであれば、それを明確化するプロセスが必要です。
企業の体質や状況にもよりますが、外部機関の協力を得て、ワークショップ形式で構築や表現を磨いていく手法が一般的です。
【参考リンク】
コーポレートブランディングと企業理念・概略編|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
ビジョンとは事業の行く末の可視化する事 企業理念体系概説|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
企業独自の価値を表現する「バリュー」とは 企業理念体系概説|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
人や組織の役割に応じた「自分ごと」として理解を深める
企業やブランドの活動は、前述したように「ヒト・モノ・コト・メディア」を通じて展開されていきます。例えば製造業であれば、その組織体は原材料調達・製造組立・運搬・流通・営業・販売など直接的に関与する部門と、総務・経理・人事・資材管理・情報システム・カスタマーサポートなどの間接部門があります。その全部門それぞれが、望ましいブランドイメージを確立するためにどうあるべきか、人の言動や行動(ビヘイビア)、物や事を媒介とするコミュニケーションのあり方を再認識します。
【参考リンク】
CIの三大要素2・VI(ビジュアル・アイデンティティ)|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
CIの三大要素3・BI(ビヘイビア・アイデンティティ)の本質は何か|RHCブランディングnote (rhcnet.com)
PDCAサイクルで恒常化する
ブランディングの核となる理念を明確化し、それを理解・共有して組織の現場で「自分ごと」として体現することができれば、インナーブランディングは成功です。そしてそれはアウターブランディングの成功に連結します。
ただ、企業やブランドを取り巻く状況は刻々と変化します。思わぬ事故や事象の影響で、本来目指す領域とのギャップが大きくなったり、ビジョン自体を修正する必要が生じることも、ないとは限りません。
「目指す領域を明確化する」「現状を把握する」「現場の自分ごととして展開する」というプロセスが完了したら、最後に「状況を検証し、次のプランとして修正していく」段階を設けましょう。
これによりPDCAがサイクル化し、より望ましい方向へ上昇し続けるスパイラルが出来上がります。
インナーブランディングを推進するツール
インナーブランディングを推進するのも、企業の活動の一環です。ということは、ここでもその推進力として「ヒト・モノ・コト・メディア」の資源/資産が活用できるのです。
「ヒト」という側面では、やはり企業やブランドをリードしていくトップの存在が大きく影響します。トップが発するメッセージは社内に大きなインパクトを与え、ブランドの方向性を象徴的に表します。また、ブランドコミュニケーションの成功事例、例えば販売の現場で機転を利かせて、お客様から非常に高い評価を得た従業員のケースなどは、ブランド理解を進める好例として共有していくと良いでしょう。
「モノ」の観点では、店舗や車両、名刺や商品パッケージなどが持つコミュニケーション媒体としての価値を、改めて一人ひとりが認識するよう努めます。その際気づいたこと、改善点なども社内で共有できればさらに効果的です。
「コト」はイベントです。社内教育や研修、合同ミーティング、記念式典、表彰式などはこれまでも広く行われてきました。こうした機会を得て、理念の共有や理解促進を深めていくことが重要です。最近では物理的に集合するイベントに加え、webを活用したリモートでのイベントも一般的になりました。繰り返しての視聴やデジタルアーカイブ化など、一層利便性が高まっているのでうまく活用していきましょう。例えば社内ポータルサイトの運用です。Microsoft365に搭載されているSharePoint Onlineなどを利用すれば、専門的知識がなくとも低いコストでポータルサイトの構築や更新・管理ができます。
最後に「メディア」です。今までもそうですが、インナーブランディングで最も活用されるのがこの「メディア」です。印刷媒体として知られているものにブランドブック、社内報、改善活動ニュースなどがあります。このほかデジタルメディアとして上に挙げた社内ポータル、社内SNS、動画なども最近ではよく活用されています。
デジタル化の推進で躍進しているのが「オウンドメディア」です。社内報やブランドブックのような単発のコンテンツではなく、設定されたカテゴリーのもとで様々な話題を記事化し、画像や文章で解説していくオウンドメディアのコンテンツは、初期には社外のユーザー向けメディアとして知られるようになりました。これを社内向けに特化して制作し、インナーブランディングに成功している企業も増えています。
本来的には「コト」に分類されるアンケート調査やワークショップ型研修なども、ブランドの意義を社内に伝達し、共有を形成する媒体機能を持つという点では「メディア」の一種と考えて良いかもしれません。また、社外に対してコミュニケートしていく広報・広告物についても、社内の目でもう一度観察し、どのような狙いや文脈でそれらが発せられているのか、分析と検証を行うと理解が一層深まります。
まとめ
こうしてみると、企業やブランドの活動はそのほとんどすべてが「ブランディング」にほかならない、ということがわかります。そしてその成否を方向づけ、活動に機軸を与えるものが「インナーブランディング」です。
・社内の現状を知る
・核となる理念を明確化する
・人や組織の役割に応じた「自分ごと」として理解を深める
・PDCAサイクルで恒常化する
あらゆる機会とツールを駆使して、上記のプロセスを最適化していきましょう。
ライタープロフィール
神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長
創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。