企業のイメチェンは、サステナブル・ブランディングで 細田悦弘の企業ブランディング 〈第45回〉
ブランディング
知る人ぞ知る、「京都百味會(きょうとひゃくみかい)」。京都の老舗中の老舗が集まる京名物の神髄ともいえる組織です。老舗が老舗であるためには、『変化への対応』が必須のようです。
今回は老舗企業に焦点をあて、サステナブルなブランドであるための奥義を学びます。
京都百味會(きょうとひゃくみかい)
京都には、老舗中の老舗で構成される「京都百味會」という組織があります。
NHKスペシャルで取り上げられたこともあり、一段と注目されました。懐石料理の「瓢亭」、八ッ橋の「聖護院八ッ橋総本店」、羊羹の「とらや」など『1名物1店』の原則で結成されており、追加入を一切認めていない、京名物の真骨頂ともいえる老舗の集まりです。
百味會が結成されたのは、戦後に物資不足などで苦境に置かれたお店同士が助け合ったことが発端といわれています。
以来、さまざまな活動を通じて、会員同士が交流を深め、高め合うことで、現在の『京名物ブランド』を創り上げてきました。ところがこの世界においても、かつてない『時代の変化』にさらされ、栄枯盛衰が見受けられようになりました。
グローバル化の急速な進展、時代の価値観の著しい変化によって、『老舗』だけではなかなか持たなくなっているようです。
どうすれば伝統を守りながら、いまの時代にも通用する老舗として、暖簾(のれん)をつないでいけるのか。この命題に挑むには、同業や近隣の『よそさん』をながめてみるだけでは糸口がつかめないようです。
これまでのやり方ではやっていけないという切迫感があります。この経営環境の激変にネガティブになるではなく、この状況をむしろオポチュニティ(商機)と捉え、チャレンジしていくことがこれからの成否を分かちます。
そこで、老舗の「暖簾(のれん)」を時代と調和(ハーモナイズ)させ、さらに栄えある歴史を紡いでいくことができるように、「サステナブル・ブランディング」の観点から検証してみます。
老舗企業出現率は、京都が一番
帝国データバンクの全国「老舗企業」分析調査によれば、業歴100年を超える老舗企業は、2023年9月時点で4万3631社を数えたそうです。
老舗出現率を都道府県別で見ると、京都府がトップとなりました。古くから都があり、中心地として栄えたことや、第二次世界大戦中の被害が比較的小さかったことなどが要因としてあげられています。さらには、京都府は伝統工芸を守り育てる土壌が代々あったことが、老舗企業の存続に大きく寄与したといえましょう。
ただ京都の老舗というと、すぐに祇園や四条河原町、西陣などにある仏具や和装関係、食品、陶磁器、伝統工芸品などのお店が思い浮かびますが、それだけではありません。
古くからある写真館がその写真製版技術をベースにして電子回路基板の製造を始めた企業、仏具や屏風(びょうぶ)に使われる金銀の箔粉を作っていたところから、自動車や電子機器に使われる金属箔に分野を広げた企業、呉服取り扱いから織物メーカーとなり、そこから自動車や飛行機の内装材メーカーとなった企業など、時代の変化を味方につけ快走する企業も多くあります。
創業時から扱ってきた素材やノウハウが先端技術に戦略的に応用される成功事例があります。長い時間をかけて家業と向き合ってきたことが、素材やノウハウに対して新しい着眼点や発想が芽生え、現代のビジネスで優位に立つことができます。
そこには強運もあったかもしれませんが、時代の流れをつかまえる力(社会的感受性:Sensitivity)が備わっていたからこそ、結実したといえましょう。
老舗企業は地域の名士であり、ゆったりと緩やかな時間が流れているイメージもありますが、実は、ここまでの長きにわたる時間は挑戦の積み重ねということができます。
老舗企業に学ぶ「サステナビリティ経営」
帝国データバンクの「100年経営企業」に関するアンケート結果によれば、100年以上に渡り事業を継続できた上位の理由として、「取引先・顧客との信頼関係」、「時代に合わせた事業内容・構成の変化」と答えています。
一方、半数超の企業が無理に成長を追わない「身の丈経営」を挙げています。分不相応な多角化ではなく、自社の強み(らしさ)に立脚して着実な成長を目指す姿勢が見て取れます。これらの回答をみても、長きにわたって営々と発展してきた企業は、お客様や取引先、地域、そして社員と信頼関係を基盤として、時代に合わせた変化を厭(いと)わず、顧客に新たな価値を提供し続けてきた経営哲学が伺えます。
サステナビリティ時代の企業経営においても、誠実な対応による信頼関係こそが、社員はもとより、お客様、株主、取引先、地域社会といった、自社を支えてくれている人たち(ステークホルダー)との信頼関係づくりの鉄則であり、企業の持続可能な成長の王道といえます。現代において、信用・信頼は「見えない資産」であり、企業競争力の礎(いしずえ)です。経営者の高い志が熱い理念を生み、その理念が社内で共有(インターナル・ブランディング)されれば、企業行動全般で『自社らしさ』が発露します。社員のやる気を培い、一挙手一投足に「ブランド力」が醸し出されます。こうした組織風土こそが、持続的な競争優位の源泉といえます。
悠久の歳月を経て輝き続けている企業の経営者は、「うちは老舗といわれるけど、いつも『変』わり続けて、『新』しいことをやってこなくては、ここまで続いていられないですよ」と口を揃えて語ります。老舗の暖簾(のれん)は、「信用」という裏打ちがなされつつも、メンテナンスをしていかないとやがてボロボロになっていくからです。老舗といえば、どんなことがあっても古いのれんを守り抜くといった印象を持ってしまいがちですが、実像はそうではないようです。
変わらないでいるためには、変わらなくてはならない
ブランドは手をこまねいていると老けて、錆びて、朽ち果ててしまいます。いつの時代にも変わらない存在でいるためには、変わらなくてはなりません。「進取の気性」をスローガンに掲げる企業も多くあります。それは、『過去から脱皮して新しいものを志向する』という表層的な意味あいのみならず、積極的に新しい物事へ取り組んでいこうという気質や性格こそが、創業時からの自社のDNAであるというのが本意だといえます。
どんな老舗でも時代に合わせて変化していかなければなりません。老舗の味は「懐かしい」だけでなく、「これからも食べたい」ものであることが大事です。
懐かしいけど新しい、新しいけど懐かしい…。これが、老舗企業の『イメチェン』の勘どころといえましょう。
自社の強み(自社らしさ)を、時代にふさわしく磨きをかける戦略メソッドが「サステナブル・ブランディング」です。
ライタープロフィール
細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)
公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。