『JTC』にエールを送る!時代を味方につけるサステナビリティ経営 細田悦弘の企業ブランディング 〈第38回〉
ブランディング
伝統的な日本の大企業の中には、ともすると内向きで硬直的な組織体質や企業文化が見受けられます。そうした企業は、若者から『JTC』と称され、往年の風格や輝きは感じ取ってもらえないようです。そこで本稿では、JTCこそがサステナビリティ時代を味方につける素地があるという観点から、エールを送ります。
JTCとは
持続可能な社会への関心が一層高まる中、有力企業が「サステナビリティ経営」や「人的資本経営」に舵を切る一方で、歴史ある日本の大手の中には、まだまだ『変化』が見受けられない企業が散見されます。ネットや就職・転職市場では、古い体質を引きずる日本の伝統的な大企業は、「JTC(Japanese Traditional Company)」というありがたくない烙印(らくいん)を押され、Z世代を中心とした働き手から敬遠される傾向があるようです。
「変化への対応力」は競争優位の源泉
近年、「変化への対応力」が企業の競争力に大きな影響を及ぼします。変化に対応できる組織風土、時代と調和する企業活動が強く求められています。時代とともに社会の関心や価値観が目まぐるしく変容するにつれ、企業への要請や期待される役割も、それを映し出して変化します。過去に通用してきた成功体験や理屈だけに拘泥すると、現代社会のためにならなかったり、場合によっては世間の顰蹙(ひんしゅく)を買うこともあり得ます。
伝統ある大企業にとってのリスクは、歴史とともに図体(ずうたい)が大きくなったのはいいけれども、『大きな古木』のように微動だにしない。結果、環境の激変という突風により、ボキっといく。こうした企業像がハイリスクの象徴といえましょう。とかく過去の栄光に胡坐(あぐら)をかいてしまいがちな老舗企業にとって、磐石な経営基盤を確保しつつ、現代社会の要請や期待への『対応力』を研ぎ澄ますことが競争優位の源泉となります。企業がこうした「マテリアリティ(重要課題:企業とステークホルダーの両者にとって大きな影響を及ぼす課題)」の変化を感度よく経営に織り込む体制や企業文化を構築できているかは、企業価値評価にとって今後ますます重要になってくるでしょう。
ただしここで留意すべきは、『時代への対応』とは、過去をすべて捨て去り、新しく生まれ変わることではなく、原点に立ち返り、『(創業の)志を今に具現化する』という視点が肝要だということです。
創業のスピリットを『今』に実現する
今日まで長きにわたって営々と発展してきた会社は、創業者や中興の祖が、魂を込めて「あるべき姿」を思い描き、まさに命がけで立ち上げています。その千金の価値のある創業者の口ぐせや珠玉のエピソードこそが、「創業の精神(スピリット)」であり、「企業理念」へと昇華してきました。優良企業の理念には、おしなべて「社会を幸せにしたい」「社会を豊かにしたい」という趣旨が込められています。
しかしながら、時代とともにその「社会」が激変します。昔ながらの発想でやっていると、良かれと思ってやったことが、無価値になってみたり、挙句の果てには仇(あだ)になることも起き得ます。その逆に、今まで気にも留めてこなかったことが、社会からプレミアムな価値として受け入れられることもあります。
さらには、『従業員』は身内ではなく、ステークホルダーであるという認識が大変重要です。そもそも『従業員を大切にする』という考え方は有力な日本企業は創業時から伝統的に備えており、雇用の保障や福利厚生の充実という形で報いてきました。しかし、いま大きく変容しているのは、従業員としての『労働条件の満足』から一歩踏み込んで、『個人のウェルビーイング』と『会社のパーパスや中長期の経営計画』をしっかりとつなぎ合わせてマネジメントする必要があります。現代企業へのロイヤルティは、昔の『忠誠心』や『愛社精神』とは質が異なります。こうしたスタンスが、現代の働き手に選ばれるか否かの大きなポイントです。
ビジネスの究極の目は「理念」の実現といえます。それは、企業の『社会との約束事』であり、社会における存在意義そのものです。この文脈が、現代における「パーパス(purpose)」につながります。ここに、時を超えて「自社の存在意義(パーパス)」を実現する戦略として、『サステナビリティ』を経営に組み込む意義があります。「サステナビリティ経営」とは、多様なステークホルダーに広く目を配りながら、中長期の時間軸をもって、自社と社会の相乗発展を志向する経営のあり方といえます。ステークホルダーも社会も、サステナビリティ重視の価値観へと変化しています。
変らないでいるために、変わり続ける
創業時から扱ってきた素材やノウハウが「持続可能な社会」の実現に向けて、戦略的に応用される成功事例が続々と登場しています。長い時間をかけて祖業(そぎょう:創業時から受け継いできた事業)と向き合ってきたことが、サステナビリティ時代における新しい着眼点や発想が芽生えることにより、現代のビジネスで優位に立つことにつながります。
伝統ある企業の多くは、長きにわたる挑戦の積み重ねの上に成り立っています。代々にわたり、時代の流れをつかまえる力(社会的感受性:Sensitivity)が備わっていたからこそ、歴史と伝統が結実したといえます。『JTC』こそ、元来、時代を生き抜く素地(ケイパビリティ:capability)があるといえます。ところが、昨今のサステナビリティへのうねりは、これまではと比較にならない抜本的な対応が迫られます。それが、サステナビリティを起点とするトランスフォーメーションです。すなわち、『SX(Sustainability Transformation)』です。
いつの時代にも、「やっぱり、さすがだね!」と言われたい。『変らないでいるためには、変わり続ける』のが鉄則です。これこそが、伝統に裏打ちされた自社ならではのコアコンピタンス(Core competence:核となる能力・得意技・伝家の宝刀)で、(今の)社会のためになるという「サステナブル・ブランディング」の真骨頂です。JTCの「企業ブランド」を時代にふさわしく磨きをかけるのが、『サステナビリティ』です。
ライタープロフィール
細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)
公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。