『なりたい職業1位』が示唆する!待ったなしの人的資本経営 細田悦弘の企業ブランディング 〈第34回〉
ブランディング
子どもの頃に「なりたい職業は何ですか?」ときかれれば、多くの人は「プロ野球選手」「幼稚園の先生」「看護師」「パイロット」などと答えた記憶があることでしょう。では今の子どもたちはというと、ナント『会社員』という回答が大勢を占めているようです。ただ、次世代がイメージする『会社員』は、かつてとはだいぶ異なるようです。企業が次世代の従業員に活躍してもらいたいなら、「人的資本経営」が待ったなしのようです。
なりたい職業1位は、「会社員」
子どもたちに「将来、何になりたいですか?」という質問を投げかけると、昭和から平成のはじめくらいであれば、「プロ野球選手」「幼稚園の先生」「看護師」「パイロット」などといった答えがよく聞かれました。
ところが近年ではだいぶ様相が違ってきているようです。
第一生命保険が発表した「第34回 大人になったらなりたいもの」調査によれば、首位は小中高生の男子・中高生の女子が「会社員」で、小学生女子は「パティシエ」となりました。
ちなみに、この調査は2022年12月中に実施され、小学校3年生以上の中・高校生3000人を対象にインターネットアンケートで実施されたものです。したがって、小学校男子の3位に「サッカー選手」がランクインしているのは、「2022 FIFAワールドカップ」で日本代表がベスト16に進出したことが影響したものとみられています。よって、その後「WBC2023(第5回ワールド・ベースボール・クラシック)」における侍ジャパンの大活躍を目にしたあとでは、『野球選手』が躍進していることも想像できます。
このように、プロスポーツ選手人気は今も昔も定番ではありますが、今回の調査で特筆すべきは、中学生男女・高校生男女の結果をみると、すべての1位に「会社員」が並んだことです。そして、「会社員としてどんな仕事がしてみたいか」という質問に対しては、小・中・高校男子と高校生女子では「学者/研究者」がランクインしました。サステナビリティ時代を反映して、好きな学問を究めたり、社会や環境の課題解決に役立つ職業への注目度の高さがうかがえました。コメントの中にも、「高校でSDGsを学び、未来の海洋資源のために役立つ研究をしたいと思った」といった回答がありました。また、「その職業を選んだ理由」への回答においても、小中・男女共通して1位は「好きだから」でしたが、中高生の男女の2位は「人の役に立ちたいから」でした。
人的資本としての『会社員』
この調査からも見て取れるように、Z世代・α(アルファ)世代を受け入れる企業側にとっては、従来の経営スタイルから脱皮し、「人的資本経営」へのシフトが待ったなしとなっていることです。人的資本経営とは、経済産業省の定義によれば、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」です。すなわち、人材を『コスト(原価管理の対象)』と捉えるのではなく、『資本(投資の対象)』として捉え、積極的に人材に投資することで企業価値を高めていく考え方を意味します。
主な着眼点は以下のとおりです。
〇従来の経営(人材):従業員は『身内』
コストとしての「人的資源」、相互依存、囲い込み型
↓↓
◎人的資本経営(人財):従業員は『ステークホルダー』
投資対象としての「人的資本」、個の自立、会社と従業員は選び選ばれる関係
これまでは人的資源(Human Resource)という考え方が主流であり、人材は「企業が事業を行う上で活用する労働力」であり、人材にかかる費用は『コスト』と捉えられていました。しかし、人的資本の考え方に基づけば、人材は「知識やスキル、経験を有し、事業活動における価値創造の源泉」とされ、人材にかける費用は『企業の成長に資する投資』と捉えられます。「資源」から「資本」へのパラダイムシフトです。
「社員を大切にする」とは
そもそも『社員を大切にする』という考え方は、有力な日本企業は創業時から伝統的に備えています。これまでも多くの企業が、雇用の保障や福利厚生の充実という形で従業員に報いてきました。しかし、いま大きく変わってきているのは、従業員としての『労働条件の満足』から一歩踏み込んで、『個人のウェルビーイング』と会社のパーパス(存在意義)や中長期の経営計画をしっかりとつなぎ合わせてマネジメントしようとする点にあります。すなわち、従業員の成長や価値観と会社の目標達成の方向を一致させ、意欲的に仕事に打ち込んでもらえるよう促すことが要諦となります。
したがって、まずはパーパス(社会的存在意義)をしっかりと標榜することが求められます。従業員からパーパスへの共感(自己実現と会社のめざす姿とがシンクロした状態)を得ることはエンゲージメントを強化し、モチベーションの基盤となります。
「自分を高めたい」という従業員の成長を奨励し、「人(社会)の役に立ちたい」という生きがいを醸成することで、会社の発展にもつなげていくという考え方です。とりわけ、Z世代の若手社員にとって、社会的存在意義が実感できる会社の社員であることの誇りは、従前の大企業に就職することで得られた処遇面の誇りとは異なります。パーパスを実践している企業で働くことで、会社との『強いつながりや愛着(ロイヤルティ)』が育まれます。パーパスは企業としての未来のあるべき姿を示すもので、個々の社員の価値観や自身の将来のありたい姿とを一致させることで実現が促進されます。現代企業へのロイヤルティは、その昔の大企業への『忠誠心』とは質が異なります。忠誠心・愛社精神が尊ばれ、もてはやされた時代は明らかに過去ものとなりました。
これからの『会社員』の就職先選びは、決して「大企業」「上場企業」「老舗企業」にこだわるわけではなく、中小企業やスタートアップ企業にも、充分目が向けられます。中小企業が抱える喫緊の経営課題が、いわゆる『優秀な人材』が離職することや確保しにくいということであるならば、人的資本経営は競争優位につながります。
自社が好きな『会社員』がたくさんいる会社は、持続的成長が果たせる
人を最大の『資本』と捉え、投資し、熱意あふれる(エンゲージメントの高い)従業員を育む。それによって、企業のビジョンやパーパスの実現につなげる経営が求められる時代が到来しました。従業員が自社のパーパスや価値観に共鳴し、エンゲージメントが高まれば、『人的資本』は磨かれ輝きを増します。『自分の会社が好きな社員』がたくさんいる会社は、持続的成長・中長期の企業価値向上が見込まれます。
本調査で「大人になったら『会社員』になりたい」と回答した、5年後10年後の従業員が自らの志と価値観のもとにパーパスに共鳴し、自社らしさを発揮してビジネスと社会課題解決を融合できれば、力強くサステナブル・ブランディングが実現できます。
ライタープロフィール
神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長
創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。