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「不適切だが、違法ではない」の企業ブランドへの影響 細田悦弘の企業ブランディング 〈第42回〉|RHCブランディングnote

ブランディング

「不適切だが、違法ではない」という記者会見がよく見受けられます。法律に触れなければ問題ないのでしょうか。企業はステークホルダーからの信頼があってこそ、組織の円滑な運営が成し遂げられます。信頼してほしければ、「誠実な対応」が必要不可欠です。

ステークホルダーへの「誠実な対応」とは

「ステークホルダー」という言葉は、あまりにもポピュラーに使われるようになりましたが、サステナビリティ時代の企業ブランディングにとって中核ともいえる概念ですので、これまで以上に奥深い理解が求められます。このステークホルダーを表層的に捉えると、社会との関わり方が形骸化し、空転(空回り)します。

企業は、ステークホルダーあっての存在です。通常は「利害関係者」と訳されますが、その本質は「会社と関わっている人々」ということです。企業経営・事業活動は、こうした『欠くべからざる人々』に囲まれ、営まれています。もしも、このような人々に反発を買いますと、何をやるにしてもギスギスするし、足を引っ張られるかもしれません。そして、いなくなった瞬間に企業が消滅する、という緊張感のあるこわい存在でもあります。

現代企業はこうした『欠くべからざる人々』に対して、誠実な対応をして、信頼を獲得し応援してもらってこそ、持続的成長・中長期の企業価値向上を果たすことができます。「誠実さ」は、グローバルでは『integrity(インテグリティ)』の概念で表現されます。日本では、一般に「誠実」「真摯」「高潔」などを意味します。

では、「誠実な対応」について、サステナビリティの観点から次の3つのキーワードによって解きほぐしてみます。それは、Transparency(透明性)、Disclosure(情報開示)、Accountability(説明責任)です。とりわけ、最後の「アカウンタビリティ(説明責任)」は、テクニカルに行き交う言葉となっています。その意味するところは、「やったことは説明してほしい、説明できないことはやらないでほしい」と掌握することをおすすめします。

ステークホルダーはそれぞれの立場から、
〇商品・サービスを購入しているのだから
〇株式に投資しているのだから
〇資金を融資しているのだから
〇原材料等を納めているのだから、おたくの商品を扱っているのだから
〇従業員として働いているのだから、働こうとしている学生なのだから
〇事業所の近所に住んでいるのだから
やったことは説明してほしい、説明できないことはやらないでほしい」と訴えているのです。

TV等で違和感を覚える記者会見は、『透明性、情報開示、説明責任』のうち、1つないか、3つとも欠落したシーンに出くわした時ではないでしょうか。「嘘をつかないでほしい、隠さないでほしい、説明をきちんとしてほしい」ということです。よく、投資家保護・債権者保護と言いますが、身柄を擁護するわけではありませんので、株を持っている人・お金を貸している人が、当該企業から最もやられたくないのは「嘘をつかれる、隠される、説明されない」ことでしょう。

不適切だが、違法ではない

「不適切ではありますが、違法ではございません」という謝罪・釈明会見がよく見受けられます。このフレーズこそが、あまりにも表層的なコンプライアンスが露呈しています。「法律さえ守ればよい」「法律に抵触しなければ問題ない」という認識の企業不祥事が、まだまだ後を絶ちません。

近年の企業不祥事は、明白な違法行為そのものが発覚したことに端を発するよりは、時代の社会要請に反した企業姿勢が糾弾される傾向にあります。現代企業の生命線は、社会(ステークホルダー)からの「信頼」です。社会は、企業が起こしたこと(良くないこと)を、いちいち法に照らして判断するでしょうか。信頼は、違法行為を起こさなければ獲得できるでしょうか。「企業犯罪≠企業不祥事」なのです。不誠実な企業行動は司法に裁かれなくても、『社会』 に裁かれます。社会(ステークホルダー)に裁かれれば、企業ブランドは失墜します。

企業の「KY」は、不祥事のもと

社会の価値観は時代とともに変容し、企業への要請や期待は刻々と変化し厳しさを増しています。この社会の空気感を俊敏に読み取って対応することが基本です。平たい表現をすれば、企業の「KY(空気が読めない)」は、不祥事のもと。社会から白い目線を浴びるもとだといえます。組織の「社会的感受性(Sensitivity)」は、現代企業必携の資質といえます。

サステナビリティ時代の企業ブランディングに取り組むには、社員一人ひとりが一段高い判断基準をもって、法令遵守だけでなく、社会から顰蹙(ひんしゅく)を買わないこと。さらには、「さすが」と一目置かれる存在となることを目指していくことが大切です。社員のブランド意識が高まれば、潜在的なブランドリスクを下げることにもつながります。「自然人としての社員の人間性、法人としての企業倫理」、「自然人としての社員の社会性、法人としての社会対応力」が企業の品格として注視される時代となっています。

現代企業にとって「信頼・信用」は競争力であり、企業ブランドの芯や背骨となるものです。自社のブランドを担う従業員一人ひとりの矜持は、社会(ステークホルダー)への「誠実な対応」の礎(いしずえ)といえましょう。

ライタープロフィール

細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)

公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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