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箱根駅伝から読み解く!企業ブランディングの勘どころ 細田悦弘の企業ブランディング 〈第44回〉

ブランディング

正月の風物詩ともいえる箱根駅伝。駅伝は、「継走」とも称されます。選手が母校の「襷(たすき)」を次の走者に引き継いでいくことはもちろんですが、先人たちが築いてきた「伝統」を今の時代へつないでいくことも込められているのではないでしょうか。受け継ぐべきは『らしさ(こだわり)』です。ここに、「企業ブランディング」の大事な要素を垣間見ることができます。

選手はじめ関係者に感謝し、『こだわり』で期待に応える

箱根駅伝・第100回メモリアル大会の優勝校は青山学院大学でした。「負けてたまるか!大作戦」が功を奏したようです。
ゴール後の優勝インタビューで、監督が「箱根駅伝100周年、青山学院創立150周年、そして監督就任20周年のメモリアルイヤーに復権できました。
このタイミングで優勝させていただいたこと、大学関係者、高校、OB、妻に支えられて迎えられたことをうれしく思う」と、感謝の言葉を連ねました。

このメッセージを今日の「企業ブランディング」の文脈から読み解くと、下記のようなキー概念が捉えられます。

◎ステークホルダーへの感謝、そして信頼関係へ
企業ブランディングは、消費者(顧客)視点だけでなく、企業に関わる人たちすべてのステークホルダーと、共に創り上げていくことに焦点が当てられます。企業はステークホルダーとともに、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源をやりとりして生きていく存在です。そして、それぞれのステークホルダーが、企業との関わりに満足している限りにおいて、企業の存続が許されることになります。したがって、ステークホルダーに対して「感謝」の心を持ち、誠実な対応をして「信頼」を獲得していくことが、今日の企業ブランディングの礎です。
好走した選手たちは、一様に「沿道の声援のおかげ」と爽やかに言います。この『沿道の声援』こそが、企業にとっては、社会からの支持という「見えない資産」であり、ビジネスを営む上でのアドバンテージとなります。

◎建学の精神と時代への適応
青山学院の「150周年ビジョン」によれば、建学の精神に基づき「人と社会のために何ができるか」を実践し続けており、本ビジョンにおいて「サーバント・リーダー」というコンセプトを打ち出しています。いま世界が必要としているのは、自分の使命を見出して進んで人と社会とに仕え、その生き方が導きとなる人、それがサーバント・リーダーということです。これは、現代企業にも通じるスピリットです。
自らの存在意義である建学(創立)の精神を、今の時代にふさわしく実現する。まさに、「サステナブル・ブランディング」メソッドが希求する、「時代に選ばれ、次代にも輝き続ける」ための戦略です。

◎「らしさ」で期待に応える
「負けてたまるか!大作戦」は、並々ならぬ努力に裏打ちされた自信とこれまでの実績から湧き出る誇りから発信されたものと推察します。いわば、王者としての『こだわり』です。これが、ブランドの原動力となります。企業ブランディングは、企業が社会に向けて表明した「らしさ(ブランド・アイデンティティ)」に期待を寄せるステークホルダーとの『約束』を一貫して守り続けることです。この『約束(Brand Promise)』こそが、コア・バリューである『こだわり』です。これによって、顧客や社会との間に長期的に揺るぎない絆を構築していくことを目指します。優勝した青山学院大学は、『こだわり』を堅持して、見事に『約束』を守ったといえましょう。

「襷(たすき)」は、シンボルマーク

箱根駅伝で出場校を見分ける時、襷(たすき)の「色」や「デザイン」を見ただけではっきりと識別され、その「大学らしさ」が伝わってきます。ユニフォームやタスキの色は、実に多彩で個性あふれます。フレッシュグリーン、臙脂(えんじ)、紫紺、鉄紺、茄子紺、ファイアーレッド、プルシアンブルー、プラウドブルー等々。これこそが、企業にとっては、シンボルとなる「コーポレート・カラー」と「ロゴマーク」です。らしさ(ブランド・アイデンティティ)は、それに期待を寄せるステークホルダーとの『約束』です。そして、その旗印となるのが、「ロゴマーク」です。ロゴマークの「色」や「形」、そのマネジメントは企業ブランディングの基本です。 企業におけるコーポレート・カラーは、らしさの象徴(シンボル)となります。「赤」と「青」の飛行機会社は、ビジュアル的に瞬時に識別され、信頼や愛着が醸し出されているのではないでしょうか。

一人ひとりが、ブランドの体現者

今回の優勝校は、選手の層も厚かったのかもしれませんが、母校ブランドに対する選手一人ひとりの姿勢や思いが際立ったようにも見受けられました。ブランドは大学も企業も、一人ひとりが組織の代表として、あらゆるステークホルダーとの接点で体現します。「一人ひとりが、自社(自校)ブランド」という誇りと自覚をもつことが、インターナルブランディングの要諦です。

創業時から扱ってきた素材やノウハウが「持続可能な社会」の実現に向けて、戦略的に応用される成功事例が続々と登場しています。長い時間をかけて祖業(そぎょう:創業時から受け継いできた事業)と向き合ってきたことが、サステナビリティ時代における新しい着眼点や発想が芽生えることにより、現代のビジネスで優位に立つことにつながります。

伝統ある企業の多くは、長きにわたる挑戦の積み重ねの上に成り立っています。代々にわたり、時代の流れをつかまえる力(社会的感受性:Sensitivity)が備わっていたからこそ、歴史と伝統が結実したといえます。『JTC』こそ、元来、時代を生き抜く素地(ケイパビリティ:capability)があるといえます。ところが、昨今のサステナビリティへのうねりは、これまではと比較にならない抜本的な対応が迫られます。それが、サステナビリティを起点とするトランスフォーメーションです。すなわち、『SX(Sustainability Transformation)』です。

いつの時代にも、「やっぱり、さすがだね!」と言われたい。『変らないでいるためには、変わり続ける』のが鉄則です。これこそが、伝統に裏打ちされた自社ならではのコアコンピタンス(Core competence:核となる能力・得意技・伝家の宝刀)で、(今の)社会のためになるという「サステナブル・ブランディング」の真骨頂です。JTCの「企業ブランド」を時代にふさわしく磨きをかけるのが、『サステナビリティ』です。

ライタープロフィール

細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)

公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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