コンプライアンスに魂を入れる!インターナルブランディング 細田悦弘の企業ブランディング 〈第43回〉
ブランディング
一般に「コンプライアンス=法令遵守」と捉えられますが、近年の企業不祥事は、明白な違法行為そのものが発覚したことに端を発するよりは、時代の社会要請に反した企業姿勢が糾弾される傾向にあります。そうした状況で、企業の価値観や組織風土、品格が露呈します。役員・社員が、「理念」や「パーパス」を再認識し、「一人ひとりが自社ブランド」としての自覚と誇りを持って行動することが肝要です。インターナルブランディングによる、社員のブランド意識で推進するコンプライアンスが望まれます。
肝に銘じておきたい、Gray is Black
あるオフィスの一コマです。部下からの質問に応える課長がいます。
部下が「課長、これは黒じゃないから、やっていいでしょうか?」と許可を求めたとします。この問いに対して、今日の然るべき課長であれば、「黒じゃないなら、やってもいい」ではなく、「白じゃないなら、やめておきなさい」と指示を出すことが、まさに明暗を分けます。
近年の企業不祥事は、明白な違法行為そのものが発覚したことに端を発するよりは、時代の社会要請に反した企業姿勢が糾弾される傾向にあります。即「黒」というよりは、「限りなく白に近いグレー」。こうした事象について、「黒じゃないから、大丈夫」と高をくくる企業もあれば、「真っ白じゃないから、やめておこう」と即断する企業。ここに、企業の価値観や組織風土、品格が露呈します。いまの時代、「グレー イズ ブラック(Gray is Black.)」であると肝に銘じておくことが企業の身を守ります。
コンプライアンス ≧ 法令遵守
一般的に「コンプライアンス=法令遵守」と捉えられますが、「コンプライアンス≧法令遵守」といった具合に、2つは同心円ではなく、法令遵守はもとより、倫理的に問題がないか、そして社会的に望ましいかというレベルまでを見据えた概念が大切です。
「コンプライアンス」を語源から発想し、「社会の要請・期待に対して、企業がしなやかに対応すること」といった広義の認識でのアプローチが重要です。コンプライアンスとは、「法令や社会のルールを守り、社会正義を堅持し、社会の要請や期待に応え続けていくこと」と捉えていくことが要諦です。
特に、社会の価値観は時代とともに変容し、企業への要請や期待は刻々と変化し厳しさを増しています。この社会の空気感を俊敏に読み取って対応することが基本です。若者ことばを引用すれば、企業の「KY(空気が読めない)」は、不祥事のもと。社会から白い目線を浴びるもとだといえます。組織の「社会的感受性(Sensitivity)」は、現代企業必携の資質といえます。
したがって、ブランド意識に基づく「一段高い判断基準」をもって、法令遵守だけでなく、社会から顰蹙(ひんしゅく)を買わないこと。さらには、「さすが」と一目置かれる存在となることを目指していくことが一歩進んだコンプライアンスといえましょう。失点を防ぐのみならず、加点をもたらすという意識で取り組むことです。従業員のメンタリティーとして、『後ろめたさ』を回避するだけでなく、『胸を張って、誇りイキイキ』につなげる前向きなアプローチです。社員のブランド意識が高まれば、潜在的なブランドリスクを下げることにもつながります。
インターナルブランディングによる、「当たり前のことを、当たり前にやる組織風土づくり」
こうした背景から、「インターナル(社内)ブランディング」が注目されています。それは、社内に対して、企業理念やパーパスに則り、サステナビリティ及びブランディングの考え方や自社のブランドを認知・理解、浸透させることにより、あらゆる事業活動や従業員の立ち居振舞いにまで反映させ、社外におけるブランド価値向上に結び付けていくというものです。
時節柄、頻繁にコンプライアンスが取り沙汰されていますが、『不祥事を起こさない取り組み』を超えて、『不祥事が起きないような組織風土づくり』の観点が重要です。そのためには、人を24時間見張るような「監視のガバナンス」には限界があり、命令で強制的に活動を強いることなどできる時代ではありません。したがって、経営層や社員の持つ使命感や倫理観、それに支えられるプライドや情熱に訴えかけ、心の中に自発的な動機付けが醸成されるアプローチも視野に入れておくことが効果的です。
時に、「うちは、eラーニングをやっているから大丈夫」との声が聞かれますが、下記の観点で吟味してみてください。
○ 人は、「意識」が働かないと行動しない
○ 人は、「知識」がないと正しい判断ができない
○ 知っていても、意識が脆い(もろい)とやってしまう
○ 意識があっても、知らないとやってしまう
だからこそ、eラーニングは十分活用しつつも、あわせて、コンプライアンスに魂を入れる「インターナルブランディング」が効果を発揮します。自社コード(価値判断基準)に基づき、『当たり前のことを、当たり前にやる組織風土づくり』を目指す「インターナルブランディング」は、時代に適応する、意識改革活動として、経営戦略の観点からも関心が高まっています。社員に、誇りと自覚による『一段高い判断基準』をもってもらうことです。この活動は、サステナビリティ・マインドやブランド意識を社員の頭と肌感覚にしみ込ませ、意識変革を促すとともに、全社的な組織風土の強化につながります。
ライタープロフィール
細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)
公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。