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「虎に翼」に学ぶ!ダイバーシティの真髄 細田悦弘の企業ブランディング 〈第50回〉

ブランディング

通称『朝ドラ』こと、連続テレビ小説「虎に翼」が好評を博しています。日本で史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、一人の女性の実話に基づくオリジナルストーリーです。困難な時代に立ち向かい、道なき道を切り開いてきた女性法律家の凛々しい姿を通じて、日本における人権意識の源流(芽生え)やダイバーシティの本義を読み取ることができます。

連続テレビ小説「虎に翼」

4月から放映中のNHK・連続テレビ小説「虎に翼」が人気を集めています。女性の社会進出がままならなかった時代において、強くたくましく夢を追いかける女性法曹の姿を描く、極上のリーガルエンターテインメントと評されています。ヒロインのモデルとなったのは、戦前戦後に女性法律家の草分けとして活躍した三淵嘉子(みぶち・よしこ)氏です。三淵氏は1932(昭和7)年4月、法曹を目指して明治大学専門部女子部法科に入学、1935(昭和10)年3月卒業後、同大学法学部に編入して勉強し、1940(昭和15)年に日本初の女性弁護士となりました。そして、1949(昭和24)年に裁判官となり、民法の改正と家庭裁判所の設立にも携わりました。のちに女性初の裁判所長も務めました。

タイトル「虎に翼」とは、中国の法家・韓非子の言葉で、「鬼に金棒」と同じく「強い上にもさらに強さが加わる」という意味を持ちます。NHKによれば、『法律という翼』を得て力強く羽ばたいていく主人公が、その強大な力にとまどい時には悩みながら、弱き人々のために自らの翼を正しく使えるよう、一歩ずつ成長していく姿をイメージしたということです。ヒロイン役を伊藤沙莉(いとうさいり)さんが好演し、ハマリ役と賞賛されています。

福音となった「日本国憲法」公布

当時は、女性の社会進出が思うに任せない時代で、法曹界も『男性社会』の風潮でした。そのような状況において様々な苦難に遭遇し、そうした壁をのり超える大きなきっかけとなったのが、『新憲法』の公布でした。印象的なシーンとしては、戦後の焼け野原の中、ヒロインが河原で新聞に掲載された「日本国憲法・第14条1項」に目が留まり感涙する姿でした。当該条文は下記のとおりです。

〈日本国憲法 第14条1項〉
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

新憲法、すなわち今の日本国憲法が福音(ふくいん)となり、挫折しかかったヒロインに勇気と希望を与え奮起させ、その後の人生を大きく変えることとなりました。法律の世界に戻る決意を固め、最高裁事務総局に任官希望に馳せ参じる(はせさんじる)際にも、本条文のナレーションが流れていました。 憲法14条の「平等権」は、今日の『ダイバーシティ(Diversity)』の土台といえます。近年、社会全体や企業経営においても人権意識が高まっていますが、憲法13条「個人の尊厳・幸福追求権」と憲法14条「平等権」は包括的人権と言われ、個々の具体的な人権の一番上に位置付けられる考え方とされます。

あれから、75年

ダイバーシティー(Diversity)は、直訳で「多様性」「相違点」といった意味があり、企業や組織などの集団に性別・世代・障がいの有無・国籍など、さまざまな属性の人々が集まった状態を指します。それぞれの個性を尊重し受け入れ、お互いの良さを認め合うという主旨があります。

ドラマの主人公が女性初の裁判官に任官してから75年。日弁連(日本弁護士連合会)では、「ダイバーシティ&インクルージョン推進宣言」が発せられています。また本年4月には、1949年設立以来はじめての女性初の会長が誕生しました。続いて7月には、女性初めての検事総長も就任しました。この人事に際し政府は、「女性活躍や意思決定過程における多様性の確保は重要である。女性国家公務員の採用・登用の取り組みを引き続きしっかりと進めていく。社会全体における女性活躍がさらに進むことも期待している」とコメントしています。

『多様性』は、企業の競争優位

変化の激しい今日、企業においても、「SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション:sustainability transformation)」が経営戦略の主眼に置かれるようになり、イノベーティブな組織づくりが不可欠となっています。多様性は創造力とイノベーテイプなアイアイアの源泉であり、欧米企業ではビジネス成果に直結する重要指標として仕置付けられています。さらには、労働力人口が減少していく中において、すべての人が持ち味を活かすことによって真の適材適所が実現でき、組織パフォーマンスの向上につながります

昨今では、ダイバーシティを2つの側面から捉え、さらに一歩踏み込んだ探究がされつつあります。性別、国籍、年齢などの一般的な「デモグラフィック・ダイバーシティ(Demographic Diversity:人口統計学的多様性)」は重要で基盤となりますが、コグニティブ・ダイバーシティ(Cognitive Diversity)を実現できれば、多様な考え方や価値観が尊重され、さらにイノベーションや生産性向上につながるといわれています。

すなわち、前者は『変えられない属性』となりますが、後者は思考特性やスキル・経験など『トレーニングで身に付けられるもの』を上手く掛け合わせるダイバーシティということです。コグニティブダイバーシティのコグニティブとは「認知の」「認知的」という意味です。そもそも認知とは、「目や耳などの五感で知覚したことを判断したり、解釈したりすること」で、それを踏まえ、コグニティブダイバーシティとは、「ものの見方・考え方、理解・判断・決断のしかたなどの認知が多様である」という意味とされます。差別をなくすことを礎(いしずえ)として、多様性を強みとすることが企業の競争優位を一段と向上させます。あらゆる立場や属性の人々が分け隔てなく、独自の能力を発揮し、ウェルビーイング(Well-being)を享受し、心身ともに健やかに活躍できる組織風土を形成することが持続可能な発展につながります

朝ドラ「虎に翼」から『ダイバーシティの真髄(しんずい)』を察知し、さらに現代にふさわしく取り組んでいくことが大事です。『時代に適合する、時代と調和する、時代を味方につける』といった切り口(着眼点)が、サステナビリティ時代の企業ブランディングの黄金律です。

ライタープロフィール

細田 悦弘(ホソダ エツヒロ)

公益社団法人日本マーケティング協会「サステナブル・ブランディング講座」講師 / 一般社団法人日本能率協会 主任講師
企業や大学等での講演・研修講師・コンサル・アドバイザーとしても活躍中。
サステナビリティ・ブランディング・コミュニケーション分野において豊富な経験を持ち、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。
※本文著作権は細田悦弘氏に所属します。

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