ブランディングの定義とその手順 -効率的・効果的にブランディングを進めるために
ブランディング
■目次
・ブランディングの定義
・ブランディングを形成する「タッチポイント」
・ブランディングの出発点は「理念」
・外部へブランドをコミュニケートしていくエクスターナルブランディング
・情報洪水:エクサフラッドの時代
この記事は、ブランディングに関して以下のような疑問や、お悩みをお持ちの方にぜひお読みいただいて、ご参考としていただけるよう構成しています。
・ブランディングに取り組みたいが、進め方がわからない
・ブランディングの施策を進めているが、思うように浸透しない
・部署により方向性がまちまちで、統合的な施策が打てないでいる
ブランディングの定義
ここ数年企業経営のトレンドを観察していると、規模の大小にかかわらず企業の間で、ブランディングの重要性に関する認識がこれまで以上に高まってきていることがわかります。
VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と呼ばれる先行き不明の時代にあって、商品やサービスはコモディティ化するものと、イノベーションによってもたらされる次世代型の、二極に分化しています。いずれの場合も、競合との差別化ポイントや、自社の優位性をステークホルダーに示し、ブランディングしていくことが大切です。
リボンハーツクリエイティブでは、ブランディングnoteの記事「ブランディングとは 愛される企業ブランド構築のためのプロセス」のなかで、以下のようにブランディングを定義しました。
“ブランディングとは、企業活動や商品・サービスを通して、ユーザーが持つ「共通価値(共通のイメージ)」を創造していくことを意味します。 企業や商品・サービスに共通の良いイメージをもってもらうために、様々な活動やメッセージやコンテンツを通してユーザーに共通の価値観を形成してもらう行為を指します。”
これを最も単純化すると、「ブランドの発信者(ブランドホルダー)」と「ステークホルダー(ブランドユーザー)」の間を結び付ける連続した活動、と言い換えることができるでしょう。しかし、いざブランディングを始めようとしても「何から始めればよいのか、わからない」という企業が、実は少なくありません。
ブランディングを形成する「タッチポイント」
ここに、ひとつの調査データがあります。
「ブランディングに取り組みたいが何からはじめればよいかわからない」という企業が13.2%、「どこに頼めばよいかわからない」が3.3%を示し、「施策の改善が必要」と回答した企業を合わせると、全体の43.7%が自社のブランディングに関する取り組みに不安を感じているという結果が得られました。
また「施策の改善が必要」と答えた集団に対して、「どのような改善を考えているか」と尋ねたところ「進め方の見直し」を挙げた回答者が65.1%と、圧倒的多数を示しました。
このように企業にとってブランディングは、関心の高い領域でありつつも、実際の取り組みや方法論がなかなか定めにくいテーマなのではないでしょうか。
ブランディングは端的に言うと「共通価値の創造」のことであり、それは「ブランドの発信者(ブランドホルダー)」と「ステークホルダー(ブランドユーザー)」の間を結び付ける連続した活動だと定義しました。ではその結びつきは、どこで生まれるのでしょうか。
少なくともブランドとブランドユーザーの間に、コミュニケーションの接点、すなわち何らかの「タッチポイント」がなければ、結びつきは発生しません。
タッチポイントはブランドの情報をユーザーに伝えるインターフェイスとしての機能を果たすもので、大きくは「ヒト」「モノ」「コト」「メディア」に分類することができます。
・「ヒト」…経営トップ、担当者、従業員、受付、オペレーター、接客など人的な情報発信
・「モノ」…プロダクト、パッケージ、オフィス、店舗、看板、車両、ステーショナリーなど物を介在した情報発信
・「コト」…商談、販売、イベント、記者発表、クレーム対応など顧客体験を通した情報発信
・「メディア」…webサイト、SNS、マスメディア、メルマガ、社内報・社外報、広報・広告など電子的・物理的媒体を用いた情報発信
これらのタッチポイントは、実際にビジネスを展開する際の、具体的なリソース:経営資源でもあります。この記事をお読みいただいている皆さんは、マーケティングの4P、あるいは4Cと呼ばれる概念をご存じのことと思います。4Pは事業を「売り手側の視点」でとらえる考え方で、「製品:Product」「価格:Price」「流通:Place」「販促:Promotion」の4つを基準にビジネスモデルを組み立てていきます。一方の4Cでは、「買い手側の視点」に立脚して事業を構築します。「顧客価値:Customer Value」「経費および時間:Cost」「顧客利便性:Convenience」「コミュニケーション:Communication」という4つの要素が基本となります。
こうした4Pないし4Cの視点で、企業は自らの事業に最も適合する「ヒト」「モノ」「コト」「メディア」の組み合わせを構築します。そしてこれらのタッチポイントを通じて、ステークホルダーにアプローチしていくのです。
ブランディングの出発点は「理念」
それではこの組み合わせ、タッチポイントを構築・設計する際に、最も大切なことは何でしょうか。「競合との差別化」「認知を得られる効果的な展開」「インパクトのあるコミュニケーション」、どれも必要ですが、忘れてならないのは事業の出発点であり、ブランドのコアである「理念」です。 それは「自分たちは何のためにこの事業を行うのか」「社会にどんなベネフィットをもたらし、貢献していくのか」という、アイデンティティにかかわるブランドの「存在意義」に他なりません。理念をゆるぎない軸とすることで、はじめて4Pや4C等の戦略、またタッチポイントの在りようがブレることなく、一貫性・整合性を伴って構築されます。
企業トップがメディアで語った内容と、実際に店舗で受けた接客の印象、商品の品質やイメージ、漏れ伝わる製造現場の様子などがそれぞれ異なり、ギャップが生じてしまってはブランドとしての信頼性が損なわれます。ブランディングを進めるにあたってまずやるべきは、理念を核としてブランドが共有すべき世界観・ビジョンを社内(インターナル)で徹底的に理解し、共有することにあります。
ここまでが「インターナルブランディング」の領域です。
理念(マインド・アイデンティティ)についてはこちらのリンクで詳しく解説しています。ご参照ください。
外部へブランドをコミュニケートしていくエクスターナルブランディング
図:「ステークホルダーと共に共通価値を創造していくブランディングの俯瞰図」
次に行うのが、外部社会に対するブランドコミュニケーション、「エクスターナルブランディング」の領域です。ここでは、「ヒト」「モノ」「コト」「メディア」がそれぞれの特性を認識し活用しながら、ブランドとしての齟齬のないメッセージをブランドの受け手、ステークホルダーに伝えていくことが大切です。
ビジネスである以上、ブランドのコミュニケーションはともすれば顧客や消費者を主要な対象と考えがちですが、企業やブランドを取り巻く関係社会はそれだけではありません。重要なステークホルダーのひとつである「従業員」に対しては、インターナルブランディングの段階で紐帯を築いていますが、それ以外の例えば地域社会の人々、取引先の人々、株主や業界関係者、またそのブランドにかかわる仕事がしたいと考える求職者なども、ブランドにとって大切なステークホルダーです。その一つ一つに対して、それぞれのタッチポイントで一貫したブランドの姿をコミュニケートしていけるよう、注意深くプランニングし、実行をマネジメントしていくことがブランディングの第二のプロセスです。
ステークホルダーについては、こちらのリンクでその種類とエンゲージメントを進めるタッチポイントについて詳しく解説しています。ご参照ください。
関連記事:ステークホルダーとは ステークホルダーエンゲージメントを向上しよう
またブランディングnoteでは、こうしたブランディングプロセスの事例を豊富に紹介しています。
株式会社ソーシャルインテリアの挑戦
は、スタートアップ企業の理念と、それに基づいた事業設計の実例です。
パタゴニア社の事例
では、「let my people go surfing(社員をサーフィンに行かせよう)」という創業者の言葉を引用して、ブランド独自の雰囲気を共有するインターナルな施策と、それを基礎としたステークホルダーへのアプローチを紹介しています。
情報洪水:エクサフラッドの時代
ブランディングを進める方法論として、まず理念をベースとしてタッチポイントを設計するまでの「インターナル」、それをステークホルダーに伝えていく「エクスターナル」の2つの段階を前章で示しました。
従業員にしても、また消費者をはじめとするステークホルダーも、ブランドと接する頻度・密度が高まるにつれブランドに関する情報が内部に蓄積されていきます。ブランドの認知度や価値は、その情報量と質によって決定していきます。
以前はマスメディアを通じた情報接触や店舗での接客など、リアルな体験がその質・量に大きな影響を与えていました。しかし、誰もがいつでも情報端末を持ち歩き、24時間常時ネットにアクセスする現代において、企業が発信するメッセージはともすれば情報洪水の中に埋没してしまいます。
加えて世界的な感染症の流行はモバイルやリモートでの情報流通を促進し、環境を整えることに一役買いました。ネットを席巻するデータはメガ→ギガ→テラ→ペタ→エクサと増え続け、まさにテクノロジーアナリストのBret Swanson言うところの「エクサフラッド(10の18乗の情報洪水)」にさらされています。それどころか、時代は既に次の単位であるゼタ(10の21乗、すなわちエクサの1000倍)という途方もない次元へと到達しているのではないでしょうか。
前述したタッチポイントの中で、私たちはデジタルのみならず従来のアナログチャネルを用いた、フィジカルなコミュニケーションも変わらず活用し続けています。デジタルからもアナログからも発せられる情報のフラッド:洪水に飲み込まれないよう、企業はコミュニケーションのチャネルを統合的に、効率的にマネジメントしていかなくてはなりません。
ライタープロフィール
神澤 肇(カンザワ ハジメ)
リボンハーツクリエイティブ株式会社 代表取締役社長
創業40年以上の制作会社リボンハーツクリエイティブ(RHC)代表。
企業にコンテンツマーケティングを提供し始めて約15年。
数十社の大手企業オウンドメディアの企画・制作・運用を担当。
WEBを使用した企業ブランディングのプロフェッショナル。
映像業界出身で、WEB、紙媒体とクロスメディアでの施策を得意とする。
趣味はカメラとテニス、美術館巡り、JAZZ好き。